「あなたらしいね」と人に言われると、
「私の何を知っているの?」と返したくなる衝動に駆られる。
「らしさ」とは、何か。
あなたらしい、あなたらしくない。
「らしさ」とはほとんどの場合、周囲の人の評価が決定づけるものである。
他者の中で形成されるその「私らしさ」が自分そのものなのか。はたまた自分だけが認識している「私らしさ」が本物なのか。
自分自身に向き合うには、まずは先人が同じような悩みに直面した時にどのように歩んできたかを知ることが手掛かりとなるだろう。銀幕に映る他者は、どこまでも他者でありながら、時に鏡に映る自己のようでもある。
こちらの記事では「自分らしく」生き続ける人々を描いた映画を3つ、紹介します。
こんなふうに生きていけたなら。『PERFECT DAYS』
どんな映画?
この映画を一言で表すと、世界的な俳優として知られる役所広司さんが渋谷区のトイレを清掃する物語です。
「それの何が面白いの?」と思うかもしれません。
しかし、いつしかその演技力や映像美に魅了され、最終的にはその世界観に呑み込まれていることでしょう。
主人公・平山は寡黙で独り身の男性。
公共トイレの清掃会社に務め、仕事が終わると銭湯へ行き、夜は本を読んで眠りにつく。
単調に進んでいく日々からは、平山の揺るぎない生き様が読み取れる。そして物語は徐々に彼の機微な心情の変化に触れていく。
沈黙が続くシーンが多いが、静謐の中から平山の真っ直ぐな佇まいやこだわりを垣間見ることができる。
そこには、結婚して家庭があるような一般的な「輝かしい」人生からは決して見出だせない、彼だけの「幸せ」の形があり、自分らしく生きることの本質を突いている作品でもある。
フライヤーの中心に書かれている「こんなふうに生きて行けたなら」というキャッチコピー。
その言葉の捉え方は、観る人によって異なるかもしれない。
ただありふれた生活を描いているだけなのに、なぜこんなにも情緒を感じるのだろう。
その理由をぜひ、実際に鑑賞して確かめてみてください。
観る前に知っておきたい、この映画のココがスゴイ!
本作は渋谷区の公共トイレを刷新するプロジェクト「THE TOILET TOKYO」の広報の一環として制作された長編映画であるため、日本の「おもてなし」や「公共施設の清潔さ」といったクールジャパンの見どころが顕著に反映されています。作中に登場するトイレは実在するため、渋谷区を歩くのが楽しくなります。さらに、世界的な監督であるヴィム・ヴェンダースは本作で日本アカデミー賞の最優秀監督賞を受賞するなど、日本のささやかな魅力をさりげなく且つ最大限に伝えてくれました。世界との架け橋となる作品であるといえるでしょう。
私は私のまま、私だけの幸せを見つけて生きていく。『ミーツ・ザ・ワールド』
どんな映画?
誰かと付き合っている、結婚している。恥じることのない「順風満帆」な人生を送っている。
そんな絵に描いたような安泰な生活を、誰もが1度は想像したことがあるだろう。しかし、本当にそれだけが幸せの形なのだろうか。そもそも順風満帆の定義って、誰が決めたのだろう。
主人公の由嘉里は恋愛経験の一切ない、オタクの女の子。合コンに失敗した帰り道、新宿歌舞伎町で美人のキャバ嬢のライに出会い、由嘉里がライの家に転がり込む形で2人の共同生活がはじまる。
二人の仲は次第に深まり、「この世から消えたい」という願望を持つライの行動を全力で阻止するために、由嘉里はとあるプロジェクトを発案する。
絶対に交わるはずのない対極の人生を歩んできた二人の奇跡的な邂逅は、思いもよらぬ結末を運ぶ。
人は日々悩みながら、笑ったり泣いたり、時に傷ついたりして、成長します。 酸いも甘いも噛み分けて、色々なものを失い、失った分、それ以上の物を得ながら。
結局どれだけ近づいたって、完全に分かり合えることはできないかもしれない。しかし、だからこそこの世界は沢山の色で溢れていて美しいのでしょう。奇跡のような出会いと別れを描いた作品です。
観る前に知っておきたい、この映画のココがスゴイ!
本作は、毎日多くの人が行き交う新宿歌舞伎町が舞台です。もしかすると、どこかで本当にこんなことが起こっているのかもしれない。そんな可能性は時に希望にもなります。また、本作の主題歌「だからなんだって話」を手がけたクリープハイプは、同様に劇伴も手がけています。物語と楽曲が混ざり合うことで生じる化学反応のような美しさにも注目です。
寂しさを抱きながら思いのままに生きていく。『ちひろさん』
どんな映画?
「元風俗嬢です」。
タブー視されがちな過去の職歴を隠すことなく、海辺の小さな街のお弁当屋さんで働きながら気ままな生活を送る主人公・ちひろ。
少年のような冒険心と優しさを胸に、ホームレスから小さな子どもにまで、分け隔てなく明るく陽気に振る舞う姿からは、俗っぽさは毛頭感じられない。
ちひろさんの唯一無二の優しさに魅了され、多くの人が彼女に惹きつけられる。
女子高生のオカジ、小学生のマコト、お弁当屋さんの店長の妻多恵。一見幸せそうに見える人でも、誰もが周囲に気づかれないところで傷ついたり、救いようのない孤独に苦しんだりしている。
ちひろさんもまた、その一人である。笑顔の裏に、拭いきれないほどの哀しみを秘めているのだ。しかし、孤独や哀しみを深く知っているからこそ、同時に他者を想うことが出来るのかもしれない。
誰かに憧れたり誰かを羨んだり、時には誰かに羨まれたり、さらには憎まれたり。
「ちひろ」の名前に隠された秘密に気づいた時、世界の温かさに触れることができるでしょう。
観る前に知っておきたい、この映画のココがスゴイ!
この作品は、隣人愛で溢れています。所詮、人間は赤の他人です。しかしそうは思いつつも、されど、赤の他人なのです。そんな近くて遠い、あるいは、遠くて近い関係をどのように捉えるかによって、今後の生き方は大きく変わります。飄々と生きるちひろさんの背中を見つめながら、気づけばあなた自身が彼女の虜になっていることでしょう。世間に揉まれて、人間関係に押しつぶされそうになった夜、この作品はいつだってそこから逃げ出してもいいことを教えてくれます。きっと誰かがあなたを見ている。あなたの道は、あなた自身が決めればいい。そんなやさしい希望の光に包まれた作品です。
おわりに
自分らしさとは、何か。
そんな途方も無い問いの答えを見つけるために、私たちはこれからも生きていくのかもしれない。
でもどうせなら、なるべく幸せに生きたい。
あなたらしく生きるための道しるべは、いつだってスクリーンの中にあります。
