「グラビアモデルに興味ない?」「芸能界に入らない?」などと街頭で声をかけられことはありますか?
安易にスカウトの甘い言葉に応じると大変なことになりますよ。
えっ、どういうこと?
女子高生や女子大生などに、駅前などでスカウトと称して声をかけてくる「街頭スカウト」は結構以前から行われていました。もちろん正規なスカウト活動も行われていますが・・・・。
芸能界やモデルに憧れているあなたに忍び寄る魔の手に注意してください。
特に近年は、しっかりした芸能プロダクションのスカウトばかりではなく、詐欺まがいのスカウト商法を行っている業者や、スカウトした女性にAV(アダルトビデオ)出演を強要する事業者、担当者スタッフによるわいせつ事案などが多くなっています。
スカウトに声をかけられた経験は?
ところで皆さんは、街頭でスカウトから声をかけられたとことはありますか?
実は声をかけられることは決して珍しいことではないのです。
内閣府〔男女共同参画局〕が 2020年に行った調査結果が公表されているので引用して説明します。
全国の15歳以上39歳までの女性2万人を対象に、インターネット経由で調査を実施した結果です。
街中でのスカウトや SNS のメッセージなどを通じて、「モデルやアイドルなどになりませんか」などと勧誘されたことがありますか?
という問に、全体のおよそ 25%(4916人)、なんと 4人に1人が「経験あり」という回答でした。
モデルやアイドルなどへの勧誘を受けた、モデル・アイドル等のアルバイトの募集広告を見て応募したという経験があると回答した女性の中から 2,575人を対象にさらに質問。
聞いていない・同意していない性的な行為等の写真や動画の撮影に応じるように求められたことがあり
ますか?
「ある」と回答した人は 13.4%(345人)
そのうち、求められた行為に応じた経験がありますか?
「ある」と回答した人は 38.0%(131人)
でした。
この数字を見ても決してスカウトなどが珍しいことではなく、理由の如何は問わず5%(131人)もの人が求められたAV出演等の行為に応じているということに驚きました。
※資料「令和元年度若年層を対象とした性暴力被害等の実態把握のためのインターネット調査」報告書(令和2年11月)
なぜ承諾したのか?
多くの場合、「承諾はしていない」、または「したくはなかったがスタッフの人から『今更・・』とか
『わがままだ』と罵られた」、「『断るとこの世界では生きていけないよ』と言われた」などの理由でやむなく応じたという。
中には「ヌード写真をばらまく」などと脅された、撮影会と称して無理矢理撮影された、という事例も。また、アルバイトの感覚で高額な出演料に誘われて出演したという例もありました。
AV出演を強要された事例
いくつか事例を掲載します。必ずしも最初からAV出演契約をしているというよりもグラビアモデルやプロダクション契約をしたあとに強引に強要されたという例が多いです。
【アイドルになりたい心情を利用した例】
①「グラビアモデルを探しているんだが・・君どう」と声をかけられプロダクションと契約。はじめは水着姿でのグラビア写真を撮影していたが、徐々に水着ではなくヌードの撮影を求められた。
断り切れずヌードの撮影に応じていたところ、その後「映画出演の依頼があった」と AVの出演を打診された。断ると、数人の男性に囲まれヌード写真をばらまくなどと脅かされ結果的に承諾した。
②音楽界デビューを夢見ていた B子さん、「デビューできるよ」と声をかけられプロダクションと契約。
スタジオレッスンに通いながらグラビアモデルの写真撮影会に出席。その後プロモーションビデオの撮影をするということでホテルの一室で動画の撮影、その際「女っぽいシーンも・・」と言われ、有無を言わせずAV動画を撮影された。
③アイドルになりたくて、タレント事務所に応募したら、すぐにオーディションに来るように言われた。事務所に行くとオーディションはなく、「仕事が決まったよ」と言われたが、その仕事はAVの撮影だった。
【アルバイト例】
①家出中の女子高生C子は、「アルバイトしないかな。顔は出さない動画撮影、30分程度で高額(10万円)の出演料を支払うから」と持ちかけてAV出演を勧誘された。
②街中で会った親切そうな人とSNSのアカウントを交換。その後、一人で寂しいときなど、SNSで相談にのってもらうようになった。「お金がない」と送ったら「いいバイトがあるよ」と返事があり、行ってみたらAVの撮影だった。
③インターネットで探したモデルのアルバイトには詳しい仕事内容が書かれていなかったが、面接に行くとAV出演に誘われた。
【交際相手にだまされた例】
交際相手に「私的な動画記録だから」と言われて撮影した動画が、AVとして販売されていた。
「AV出演被害防止・救済法」を知ってますか?
「AV出演被害防止・救済法」は、上記事例のような AV出演被害者の実態を背景に、特に成年年齢の引き下げにより新たに成人となった 18歳、19歳が出演を強要される被害などにあうおそれが指摘されたことなどから、その被害防止や被害者の救済のために 2022年6月に制定された法律です。
この法律のポイントは、未成年者の場合は、親権者の同意なく AV 撮影やグラビア撮影の契約をした場合は民法の未成年者取消権に基づき契約を無効にすることができます。
しかし、成人が行った契約は AV出演であっても有効なのです。が、この法律に基づいてアダルトビデオの撮影等の契約の解除や販売・配信を止めることができるようになりました。
法律のポイントは次のとおりです。
○ 書面での契約を義務付け
アダルトビデオの制作にあたっては、制作者側と出演者との間で制作するアダルトビデオごとに書面で契約を交わし、また制作者はその契約の内容を説明した文書を渡さなければならない。
○ 契約書に記載すべき事項を明示
契約書には、どのようなアダルトビデオなのかを明記し、撮影の日時や場所、映像を公表する期間や方法、出演料や支払いの時期などを記載することとされた。
○ 履行に関する期間の定めと解除権
契約してから撮影までには 1 か月間を空けること。また、撮影してから4か月間は公表禁止(販売したりweb に流してはいけない)。出演者はこの間無条件で契約を解除できる。
○ 公表後の契約解除権
公表されたあとでも 1 年間は無条件で契約を解除できる(施行から2年までは2年間)
○ 差止請求権
AV 出演者は、出演契約に基づくことなく AV を制作し公表された場合、または出演契約の取消しや解除をしたときには AV の公表(ビデオの販売や Web に流すこと)をとめることができる。
○ 損害賠償
出演者が法律に基づいて契約を解除しても、発生した損害を賠償する責任は負わない(報酬としてもらった金額以外の賠償金は支払う必要がない)。
○ 罰則が設けられた
- 虚偽・強要の禁止
契約にあたって.意図的にうその説明をした、脅したなどの場合:
法人は 1 億円以下の罰金、 個人は3年以下の懲役または300万円以下の罰金 - 契約書交付義務違反等
契約の際に書面を渡さない、うその内容の書面を渡したなどの場合:
法人は100万円以下の罰金、 個人は6か月以下の懲役または100万円以下の罰金
明確に「イヤ」という意思表示を
AV出演契約を迫られた、出演を強要されたという場合には、まずは「NO」「イヤ」という意思表示を明確にしましょう。
もしAV出演契約をしてしまった場合でも、法律に基づいて契約の解除することが可能です。心配しないで#8891に電話して相談しましょう。
例えば
○ 契約してしまったが・・やっぱり出たくない
⇒メールやSNSで「イヤ」と伝えましよう。
例えば、「(○月○日に契約した)AVに出演する契約を解除します。今後、このことで連絡をしてこないでください。」
※もちろん撮影には行かない。
○ 撮影日直前でも
明日撮影だけど.やっぱり無理~~ 契約後 1 か月経って撮影する直前になってしまった。
⇒メールやSNSで「イヤ」と伝えましよう。
例えば「(○月○日に契約した)AVに出演する契約を解除します。今後、このことで連絡をしてこないでください。」
※もちろん撮影に行かない、撮影しない。
○ 撮影してしまった、既に公表された場合でも
断り切れず撮影しちゃった・・、すでに売られているけど・・、怖くて・いやだ~どうしよう・・・。
⇒メールやSNSで「公開はイヤ」と伝えましよう。
例えば「(○月○日に契約した)AVに出演する契約を解除します。公表はやめてください。」とハッキリ相手方に伝えましょう!
上記のような意思表示をした際に、「あって話をしよう」などと言われるかもしれません。でもあわないことです。AV出演被害防止・救済法に基づき意思表示をすれば契約を解除できます。解除はメールやFAXで大丈夫です。
もし、しつこくつきまとう、家に来るなど不安なことがあれば、性犯罪・性暴力被客者のためのワンストップ支援センター(#8891《はやくワンストップ》)に相談したり、場合によっては警察に相談しましょう。
また、悪質な事業者にしつこくつきまとわれたり、家に押しかけたりしたときなどは110番を!
「#8891」はどういう対応をしてくれるの?
「#8891」に電話すると、近くの相談先である「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」につながります。
ここでは、例えば、アダルトビデオに出る約束をなかったことにすること(契約解除)やアダルトビデオが勝手に売られたりインターネットで流されたりすることを止めるための手伝いなどをしてくれます。
参考;https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/avjk/index.html
悪質な業者は
悪質な業者は、普通の芸能事務所を装ってプロダクション契約等を結んだ後、撮影の段階(現場)でAV出演だとわかり拒否した女性らに出演を強要したり、高額な違約金を請求する、脅すなどして、撮影を強行しようとします。
もちろんこのような行為は、刑法の強要罪や脅迫罪などに該当する可能性もありますので、まずは#8891や警察にすみやかに相談しましょう。
なぜ今、被害が増えているのか
これまでは、20歳未満の未成年者は保護者の同意のない契約について「未成年者取消権」を行使することができ、契約そのものを無効にし、業者側に撮影された動画を削除・回収させることができました。
しかし、成年年齢力が引き下げられたことで、成年年齢に達した18歳、19歳の人はこの取消権を使えなくなり、また18歳は高校生や大学生で成年年齢における法的な立場なども充分に認識していないことなどから契約上のトラブルや被害が増えているといわれています。
そのほか、未成年者を含めアイドルに憧れる、芸能界に入りたいと思う若者が増えている、SNSの普及によりスカウトなどの募集活動が容易にできるようになり、また応募することが容易にできるようにな
ったことなどが挙げられます。
悪質業者からすると、この年代はまさに格好なターゲットなのです。
動画等のリスク
出演した AV 動画や、自らわいせつ画像に当るような写真や動画を撮影し「裏アカ」などと称して SNS等に投稿した動画等が知らないうちに出回ったり、Web 上を走り回りいつまでも消すことができない(「デジタルタトゥー」といわれている。)などのリスクがあることを忘れないでください。
最後に
街頭でのスカウトや高額アルバイトを名目にして、若者をくいものにする罠(わな)がはびこっています。
新しい法律ができ、行政や関係団体などが取締りや警戒活動をしていますが、重要なのは皆さん方の意識です。
スカウトによる芸能界への勧誘や広告、甘い言葉に惑わされることのリスクを認識し、できるだけ近づかない、そして断る勇気を持ちましょう。
うまい話にも、すぐに飛びつかず、家族とよく話し合いましょう。