「成年年齢の18歳」に引き下げる改正民法が2022年4月に施行されて、2年が経過しました。
成年年齢を引き下げることで、未成年から成年になった18歳や19歳の人たちが被害にあう消費トラブルが一層増えるのではないかと懸念されていました。
先般、独立行政法人国民生活センターが全国の消費生活センター等が行っている「消費生活相談」の状況を取りまとめた「消費生活相談状況-2023年度」を公表しました。
その内容をよみ解くと…やはり18歳,19歳の相談が多く、どうやらこの年代の人たちが悪徳事業者に狙われていると感じましたので共有します。
成年年齢引き下げによる契約の法的位置付け
成年年齢の引き下げにより18歳に達すると成年となり、いろいろな契約行為を自らの意思で行うことができるようになりましたね。
一方で民法改正後は、18歳や19歳の人が行った契約について成年としての法律行為となることから原則として「有効な法律行為」ということになって、改正以前には18歳、19歳が使えた「未成年者の法律行為の取り消し」の対象から外れ、同じような契約行為でも成年であることから大きなリスクを負うことになったのです。
成年間がない年代がターゲット?
国民生活センターが発表している消費者相談件数をみると、改正民法の施行前である2020年度までの5年間に全国の消費生活センターなどに寄せられた相談のうち、契約者が18歳または19歳だったケースは、あわせて4万8000件余り、当時成年になって間がない20歳から24歳の契約者の相談件数はおよそ20万3000件と、約5倍も成年年齢に達したばかりの年齢層が多かったのです。
このデータが示すように、改正民法が施行される前、つまり20歳が成年年齢とされていた当時は、成年年齢に達して間がない20~24歳の相談件数の方が多く、単に若い人というよりも“未成年者取消権がなくなる20歳を過ぎ”の成年仲間入り間がない年代が悪徳業者に目を付けられていたのです。
ところが2022年4月に成年年齢が引き下げられた後は、成年年齢に達して間がない18歳や19歳の相談が急増しています。
そのことは、成年年齢に達して間がない、どちらかというと余り社会経験や経済的な知識のない人たちが悪徳業者のターゲットにされる傾向になっているともいえるのです。
国民生活センターの公表資料の概要
以下、国民生活センターが公表した資料をみてみると、
〇 相談件数;2023年度の18歳・19歳の相談件数は、2022年度と比較してほぼ横ばい。
〇 商品・役務等別;2022年度の傾向と大きな変化はなく、引き続き「美(び)」(「脱毛エステ」「医療サービス」など)や「金(かね)」(「他の内職・副業」「金融コンサルティング」など)に関する相談が多く寄せられている。
ということができます。以下その概要をもう少し詳しく説明します。
1.相談件数
契約当事者が18歳・19歳の相談件数の推移をみると下図のとおりです。
わずかですが増減を繰り返している状況が認められるもほぼ横ばい状態です。
注)、国民生活センターと全国の消費生活センター等をオンラインネットワークで結び、消費生活に関する相談情報を蓄積しているデータベース(PIO-NET(パイオネット:全国消費生活情報ネットワークシステム))による統計である。
2.商品・役務等別の相談件数
商品・役務等別にみた2023 年度の相談件数は下表のとおりです。
2022 年度の傾向と大きな変化はなく、引き続き「美(び)」(「脱毛エステ」「医療サービス」など)や「金(かね)」(「他の内職・副業」「金融コンサルティング」など)に関する相談が多く寄せられている状況にあります。
また、主な相談としては、携帯電話サービス(157)、他の駆除サービス(100)が20位以内に入り、一方で、脱毛剤(184)、自動車運転教習所(108)が姿を消しました。
3.販売購入形態別の相談件数
どのような販売や購入形態の相談が多いのかをみたものが下表です。
2022 年度と2023 年度における販売購入形態別の相談件数を比較していますが両年度ともほぼ同様の傾向にあるといえます。
2023 年度、2022 年度ともに相談件数が多いのは「店舗外販売」であり全体の取引の6割を占め、最も多いのは「通信販売」で総数の5割近くを占めています。
両年を比較してみると、昨年度は、「電話勧誘販売」と「訪問販売」の相談件数が増加しており、「電話勧誘販売」では、内職・副業や金融コンサルティングに関する相談、「訪問販売」では電気や駆除サービスに関する相談が寄せられています。
4.契約購入金額・既支払金額
2022 年度と2023 年度における契約購入金額及び相談時の既支払金額を比較してみると、平均契約購入金額は2023 年度が24 万8,468 円で、2022 年度の23 万4,776 円と比較してほぼ横ばい。
また、平均既支払金額は2023 年度が8万1,731 円で、2022 年度の8万5,181 円と比較してほぼ横ばいでした。
5.販売方法・手口
2022 年度と2023 年度における販売方法・手口別の相談件数を比較したのが下表です。
「インターネット通販」、「定期購入」に関する相談が引き続き多くみられるが、相談件数は減少しています。
若者の被害相談の多い事例
国民生活センターが特に若者に注意を呼び掛けている相談事例を以下に示します。事例に学び、くれぐれも悪徳業者の餌食にならないように注意してくださいね。
新生活を始めた若者を狙った訪問販売に注意!
3~6月は、1人暮らしなど新生活を始めた若者を狙った訪問販売に関するトラブルが増加する傾向にあります。
その手口は、訪問してきた事業者が電気、ガス、水道料金などの割引提案による契約の見直しなどが多いようです。
例えば、
「住民の皆さんにお願いしている」、「他の住人も契約している」などと勧誘し、契約しなければいけないと消費者に思い込ませるという手口で契約の見直しを勧めるもので、
- 訪問業者から電気代が安くなると言われ検針票を見せたら契約変更された
- 「アパート全体の電気契約が変更になる」と言われ契約したが嘘だった
- 「賃貸アパートの他の住人も契約した」と都市ガスの契約先の変更を勧められ契約した
などの事例が多いようです。
お試し広告、実は定期購入だった
SNSなどの広告を見てお試しのつもりでダイエットサプリなどを注文したところ、購入回数の条件があるコースや定期購入コースだった。
商品としては、ダイエットサプリ、美容液など健康食品や美容に関するものが多く、お試しのつもりだった注文が実は定期購入になっていたのです。
しかも誤って申し込んだことに気付き解約しようとすると高額の違約金を要求された例が多いという。
電子渡航認証申請、実は代行業者のサイトだった
ESTA等の電子渡航認証トラブルも最近多いといいます。
日本人が渡航する際、渡航先及び渡航期間によっては、電子渡航認証の申請が必要となるため、ESTAを申請しようとインターネットで申請サイトを検索した。
検索結果の一番上に表示されたサイトに接続して申請したら、実は申請代行業者のサイトであったため高額な代行手数料を請求されたという。
急かされて高額なマネジメント契約をしたが、解約したい
インターネットでタレントオーディションの広告をみつけ、興味があったので面接審査を受けた。その後、「合格した」と電話で連絡があり事務所に行ったところ、その場でマネジメント業務委託契約の勧誘を受け、やむなく契約した。
ネット検索で見つけたロードサービスのトラブル
車のバッテリーが上がり、インターネットで調べたロードサービス業者に依頼したところ高額な請求を受けたという。
あらかじめ必要なロードサービス料金などを確認しせず、見せかけの安価な作業代金に目をとられて申し込んだため、出動料金や日当などの経費を見落としていた、など。
そのほかにも、大学入学後の学生が「友達からマルチ取引の勧誘を受けた」、「副業や投資として高額な商材を買わされそうになった」、ネットショッピングで購入申し込んだが届かない、届いても粗悪品だったなどの事例もあるようです。
クーリングオフできる販売方法・商品もある
訪問販売や店舗外において販売する行為の中には、クーリングオフといって成年の契約であっても消費者保護の観点から解約の申し入れをすることができる場合があります。
クーリングオフが行われた場合、事業者は消費者(購入者)に対して、損害賠償や違約金などを請求することはできません。
また、消費者が事業者に対して返品等を行う際に送料等費用が必要な場合には、その費用は事業者が負担しなければならないこととされています。
そして、一定の期間の定めがあることから、契約後不安になったら速やかに手続きをすることが必要なのです。以下の表はクーリングオフの対象と期間をまとめたものですが、取引の種類などによってクーリングオフの期間が異なるので誤らないようにしてください。
なお、クーリングオフは所定の期間を経過すると解約できなくなります。
また、相手の会社等が実在しない、相手方に連絡がつかないなど詐欺的な販売行為の場合には、この制度を適用することができないということもあるので、取引(契約)そのものを慎重に行うことが求められています。
不安を感じたら、#188(消費生活センター)や警察署に速やかに相談することも大切ですね。
おわりに
これまで説明したように成年年齢の引き下げに伴い、成年年齢に達して間がない年代の契約上のトラブルが増加しています。
成人したというメリットがある一方で、いろいろなリスクを負うことを理解し、自覚して生活するようにしましょう。
過去の事例などを通じて、悪徳業者など相手方の手口などを学んで、取引(契約)することも大事です。
広告や勧誘の文言をうのみにすることなく、契約条件や内容について契約書面等と付き合わせながら納得できるまで説明を受けるようにしましょう。
また、「特別割引」、「今だけなら」、「本日に限り」というような格安割引を表に出す販売方法は、まず怪しい販売方法ともいえるので要注意です。
商品購入の必要性、販売会社の信頼性、必要性等を冷静に考えてから本当に必要な契約だけをすることが大切です。
そして最後には「イヤ」と断る勇気も必要です。
<参考>
- 独立行政法人国民生活センター:https://www.kokusen.go.jp/
- 「18歳・19歳の消費生活相談の状況-2023年度」:https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20240528_1.html
- 若者の消費者トラブル(テーマ別特集)https://www.kokusen.go.jp/soudan_now/data/wakamono.html