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ピサンキから着想、細かい模様の絵付けが魅力!陶芸作家・飯野夏実さん【インタビュー】

こんにちは、ハルです!

今回は、私が陶芸好きな高校生におすすめしたい陶芸作家・飯野夏実(いいのなつみ)さんをご紹介します。東京都台東区にある飯野さんの工房へ訪れ、直接インタビューさせていただきました。

実は私、以前飯野さんが開催しているピサンキ教室に参加したことがあって、お会いするのは今回が2度目。(ピサンキについては後ほどご紹介します)

飯野さんが陶芸作家になったきっかけや作品のこだわり、使われている技法についてのお話。そして、飯野さんが制作したかわいい模様の絵付けが魅力的な作品の写真をたくさんご用意しました。

陶芸が好き、陶芸作家に興味がある、もしくは目指したいと考えている高校生はぜひ最後までご覧ください!

陶芸作家 飯野夏実さん

今回インタビューさせていただいた、陶芸作家・飯野夏実さん。東京都台東区にある『Studio Karakusa(スタジオカラクサ)』という工房で作陶しています。写真に写っている工房の壁には、大理石やガラスなどがくっついたカラフルなモザイクパーツが埋め込まれていて華やかな印象を受けます。

工房の外壁に埋め込まれているモザイクパーツ

飯野さんは武蔵野美術大学の工芸工業デザイン科で陶芸を学び、卒業してから数年後に作家活動を始めました。そんな飯野さんに、陶芸作家や作品についてのお話をたくさんお聞きしましたので、ぜひご覧ください!

陶芸作家になったきっかけは?

──飯野さんが陶芸作家になったきっかけは何でしたか?大学に入ったときから陶芸作家を目指そうと考えていたのでしょうか。

飯野さん 実は私、大学に入ったばかりの頃は陶芸を志望していなかったんです。大学1年の専攻を決める前の段階では、ガラスや木工、家具などに興味を持っていました。でも、陶芸の先生の人柄が素敵だったこと。それと、一人暮らしをはじめてから料理をするようになったので、「食器を作れたら楽しいかもしれない」と思い、陶芸を専攻することを決めました。

──そうなんですか!そのときはまだ、陶芸作家になろうとは思っていなかったんですね。

飯野さん 最初は全く思っていませんでしたね。大学2年生の頃は「卒業後はどこかに就職するだろうな」と考えていました。でも大学4年生になると就職を視野に入れなくなっていたので、「就職しないなら陶芸作家になろうかな」と思って。決意したという感じではなく、少しふわふわした考え方でしたね。

作品のこだわりは、好きな世界観を込めること

飯野さんが制作した小皿

──飯野さんの作品のこだわりは何ですか?

飯野さん 私のこだわりは、自分の好きな世界観を器の中にいっぱい入れることですね。好きな模様や絵をたくさん描いて、それを見て「かわいい」と思ってくれた人達が買ってくれると嬉しいです。

──確かに、飾ってある作品のほぼ全部に模様が描かれていますね。ここに描かれている絵や模様は、どんなものから影響を受けているのでしょうか?

飯野さん ヨーロッパや中東、日本などたくさんの地域の装飾デザインから影響を受けています。細かいものを描くことが得意なので、自分の性に合っていると思います。

中皿サイズ

一つ一つの器に、細かい絵や模様がぎゅっと閉じ込められています。カラフルな色合いと金彩が光に当たって、キラキラと輝いていますね。

ピサンキがきっかけで自分の得意なことに気づいた

──今の作風になるまでどんな経緯があったのでしょうか?大学で陶芸を専攻していたときから絵付けをしていたのか、とても気になります。

飯野さん 大学ではろくろや手捻りなどの基本的な技法は学んでいたのですが、絵付けは4年間あまりやっていなかったです。けれど卒業して大学に残って働いていたときに、「就職しないで陶芸作家になるなら、これまで作ってきたピサンキの模様を生かして絵付けをしてみよう」と思うようになりました。

──飯野さんはピサンキ教室を開いていますよね。日本ではあまり馴染みがないものだと思いますので、簡単に説明していただけますか?

飯野さん ピサンキはウクライナの伝統工芸品で、卵の殻に模様を描いて色を染めたものです。植物や生き物、太陽などをモチーフにしたさまざまな模様が描かれています。

飯野さんが実際に作ったピサンキを見せていただきました。卵の底に小さな穴を開け、中身をかき出して洗ってから模様を描きます。

──うわぁすごい!模様や色がみんな違う。すごく細かくてカラフルでかわいらしいですね。

飯野さん 私は15歳のときにピサンキの魅力にハマって、それからずっと作り続けています。大学4年最後にピサンキを見て「細かい模様を描くことが得意なのに、陶芸の器にはこういう模様を描いたことがなかったな」と気がついたんです。

それで「陶芸作家になるならこのやり方しかない」と思って、武蔵野美術大学卒業後に京都の京都伝統工芸大学に行って、絵付けを本格的に学びました。卒業した後、2010年から陶芸作家の活動を始めました。

──15歳からずっと作り続けているピサンキがきっかけで、今の陶芸作品の作風につながったんですね。

飯野さん そうです。作家活動のはじめから絵付け作品を中心に制作していました。まあでも、最初から活動がうまくいっていた訳ではないですね。ある程度軌道に乗るまでは、アルバイトもしていました。

──確かに、はじめから陶芸作家の活動のみで生活するのは難しそうですよね。最初は京都で作家活動をしていたのですか?

飯野さん 最初の約2年は京都でアルバイトと作家活動をしていました。一人暮らし用のアパートに無理やり陶芸の窯を置いて制作していましたね。でも場所が狭くてすぐに限界がきてしまい、たまたま見つけた埼玉の窯付き物件へ移住して約10年ほど作家活動して、今年(2022年)の2月に東京都台東区へ引っ越してきました。

窯に入っている作品

こちらは東京都台東区の工房に設置されている窯で、高さ・幅どちらも1m以下。飯野さん曰く、大きすぎないから場所を取らないし、1人で活動するには十分なサイズなのだそう。

次ページ:「どんな技法が使われているの?」

どんな技法が使われているの?

──飯野さんの作品には、どんな技法が使われているのでしょうか?絵付けの他にも色々ありそうです。

飯野さん 器の形作りは基本的に『ろくろ』ですが、たまに『タタラ』や『手捻り』の作品も作っています。装飾は『いっちん』という絞り出しの技法と、『下絵付け』と『上絵付け』の2種類です。

(C) Craft Studio Karakusa by Natsumi Iino

いっちん

──いっちんとはどのような技法なのでしょうか?

飯野さん 道具と材料があるので、実演してお見せしますね。いっちんは焼く前の乾き切っていない粘土の上に、泥状の粘土で模様を描く技法です。描いたあとに約950 ℃の温度で素焼きすると、粘土といっちんで描いた模様が密着して凹凸のある器に仕上がります。

いっちんの実演

四角い粘土の上に、細い線が描かれているのが見えるでしょうか?先端がとんがった入れ物の中に泥状の粘土が入っていて、絞り出すと写真のような細い線が描けます。お菓子のアイシングクッキーに似ていますね。

──お皿の表面に描いてある凹凸の線は、全部いっちんで施されたものなのですね。ちなみに、飯野さんが使用している粘土はどの種類のものですか?

飯野さん 私が使っている粘土は「磁器土」という種類のものです。この粘土は焼く前はクリーム色ですが、約900度の素焼きで薄いピンク色に、そして1250度以上の温度で本焼きすると白色に仕上がるんです。描いた絵や模様が映えるので、ずっとこの磁器土を使って制作しています。

──確かに、白い器の上に絵や模様が描いてあるとくっきりと綺麗に見えます!

絵付け

飯野さん 先ほど、「絵付けは『下絵付け』と『上絵付け』の2種類で描いている」とお伝えしましたよね?まずは下絵付けを実際にお見せします。

下絵付け(和紙染め)の実演①

素焼きした器、下絵付け用の絵の具、筆、四葉の形の紙などが用意されました。

飯野さん 下絵付けとは、素焼きした器に描く絵付けの技法です。型紙のおもしろさと風合いをつけるために、『和紙染め』というやり方で描いています。やり方の流れは、

  1. 素焼きした器の上に、水を含ませた紙をペタッと貼り付ける
  2. 筆を使って、下絵付け用の絵の具を紙に染み込ませる
  3. 絵の具が素焼きの器に染み込んでいく
  4. 紙を剥がすと、くっきりとした模様ができあがる

こんな感じです。素焼きした器は水分をよく吸収するので、絵の具がしっかり染み込んでくれます。

下絵付け(和紙染め)の実演②

絵の具を染み込ませてから紙を剥がすと、模様がくっきりと現れました!

飯野さん もう一つの上絵付けという技法は、釉薬をかけて本焼きをした器の上に描くという方法です。素焼きの器に釉薬をかけて本焼きを終えてから、ようやく上絵付けの技法に入れます。今ちょうどアシスタントが上絵付けをしているので、見てみてください。

アシスタントによる上絵付け

──こちらのアシスタントさんが手に持っているものが、釉薬をかけて本焼きした器ですよね?

飯野さん そうです。器の表面がツヤツヤしていますよね?これが釉薬です。私が使っている釉薬は本焼きをすると透明になるもので、焼き上がりは磁器土の白がよく映えますし、絵付けの模様も華やかに見えます。

──色とりどりでとても綺麗ですね!上絵付けで模様が描き終わったら、次は何をするのですか?

飯野さん このまま上絵付けに触ってしまうと、せっかく描いた模様が剥がれてしまいます。なのでもう一度窯に入れて約800度まで上げて、器と上絵付けを密着させます。そうすると触っても剥がれなくなります。これで作品は完成です!

タタラ・手捻り

小さな椅子の作品

飯野さん 私は基本的にろくろを使って形作りをしているのですが、ろくろを使っていない作品もあります。これは機械(ろくろ)ではなく『タタラ』と『手捻り』というやり方で、粘土を自分の手や指先、道具で形を整えて作ったものです。いっちんや絵付けの技法も取り入れています。

このように、

など、さまざまな技法が使われていました。作品のバリエーションも豊富で、見ていてワクワクします!

陶芸作家の過ごし方

工房で使用しているろくろ

──飯野さんの1日の制作時間はどのくらいでしょうか?

飯野さん 制作時間は特に決まっていないです。私の場合はお昼ごはんを食べ終えてから制作に入ることがほとんどですね。お昼から夜12時くらいまで、自分のペースで制作を続けています。陶芸の作品を作ることがほとんどですが、たまにピサンキやモザイクも作っていますよ。

鳥デザインのモザイク

──陶芸のお仕事がほとんどなのですね。これほど忙しいとお仕事を休むのが難しそうですが、お休みする日はご自身で決められているのでしょうか?

飯野さん 休日も特に決まっていないです。どこかへお出かけする日があれば、その日を休日として過ごします。

大変なことを上回る楽しさ

──陶芸作家の大変・楽しいことは何がありますか?

飯野さん 大変なことは、やっぱり経済面ですかね。普通のサラリーマンと比べると収入が安定していませんから。でも経済面の大変さを超えるくらい、制作が楽しいです!作品を作っていると「私にはこの道が合っている」と実感するくらい、今の活動が楽しいし自分に向いていると思います。

今後作りたいもの

流れ星のモザイク

──今後新しく作りたい作品はありますか?

飯野さん モザイクをもっとたくさん作りたいです。今は陶芸に比べて作る時間がほとんどないですからね。

──工房に飾ってあるモザイクは、どんな材料で作られているのでしょうか?

飯野さん モザイクは大理石やガラスなどを使っていて、細かく砕いて一粒一粒貼り付けています。適当な大きさに砕くのが意外と大変ですが、出来上がったときの感動は大きいです。次の個展では、できればモザイクも一緒に飾りたいなと思っています。

モザイクに使う石を砕くための刃とハンマー

今後はモザイクもたくさん制作したいという飯野さん。個展で陶芸作品と一緒に飾られる日がとても楽しみです!

次ページ:「陶芸家を目指す学生に伝えたいこと」

陶芸家を目指す高校生へ伝えたいこと

──飯野さんから高校生へ、何か伝えたいことやアドバイスはありますか?

飯野さん もし今の高校生の中に陶芸作家に興味がある、目指したいと考えている人がいるのであれば、陶芸だけに限らずさまざまな芸術に触れてほしいと思っています。陶芸以外の芸術に触れることで、自分の感性を刺激したり、面白い・新しいアイデアがひらめいたりなど、良い影響をもたらしてくれます。

そして、作家になる・ならないに関わらず、高校生のみんなには「就職ではなく芸術の道で生きていくこともできる」ということを伝えたいです。私自身、最初はこの道で生きていくことに大きな不安を抱えていましたが、今こうして身を立てることができています。なので、「就職以外にも生き方の選択肢がある」と知ってもらえたら嬉しいです。

展示会・ピサンキ教室情報

カップや蓋物、箸置きなど

展示会情報

今の時点で決まっているのは、下記の2つ。

◯三人展:【8月5〜23日】京都・二条通寺町東入ルのSophora(ソフォラ)で開催
◯個展:【2023年1月東京・目白のGALLERY RUEVENT(ギャラリールヴァン)で開催

京都は三人展で、他2人はガラスと竹の作品を飾ります。一度に陶芸・ガラス・竹の作品を見て楽しむことができますよ。東京で開く個展の日程はまだわからないので、もう少し先になって詳しい情報が出たら、またお知らせします。

記事の最後にも展示情報をまとめていますので、陶芸に興味がある高校生は機会があったらぜひ行ってみてくださいね!

ピサンキ教室

冒頭でお伝えしたピサンキ教室についてご紹介します!

飯野さんは工房で定期的にピサンキ教室を開いていて、どなたでも参加できます。初めての方の場合は飯野さんが専用の道具と卵の殻をご用意してくださるので、手ぶらで参加OK!(2回目からはご自身で専用の道具、卵の殻を持参)

ピサンキ教室に参加できる人数は1回のレッスンで6名まで、満席になり次第締め切りになります。詳しい日程や1回のレッスン費については、下記に記載しているURLからご覧いただけます。

作ってみたい人や興味がある方は、ぜひ下記のURLをチェックしてみてくださいね!

■ ピサンキ教室について 場所 東京都台東区清川1丁目9-7 (最寄駅は南千住です。) 時間 13時から各自作り終わるまで 料金 1回レッスン4000円 (5回チケット18000円もあります) 人数 毎回7名になりしだい締め切ります。 持ち物 はじめての方は手ぶらでいらしてください。 2回目からは、卵の殻と、自分のキストカ(卵に絵を描くペン) を持参していただきます。 2023年の教室の予定 9月9日(土)、10日(日) 10月9日(月)スポーツの日、15日(日) 11月11日(土)、12日(日) 12月9日(土)、10日(日) その他の日程でも、3...
Class - natsumi-iino Jimdoページ

まとめ

今回は陶芸作家・飯野夏実さんにインタビューさせていただきました。

10年以上活動を続けている飯野さんが作家になったきっかけや作品へのこだわり、技法など、貴重なお話をたくさんお聞きすることができました。

陶芸作家に興味がある、あるいは目指している学生のみなさんは、芸術で生活できるか不安に思うことがあると思います。そんなみなさんにとって、飯野さんの「就職ではなく、芸術で身を立てることもできる」というメッセージは、陶芸にかかわらず芸術分野を学ぶ学生のみなさんにとって、一歩踏み出す勇気になったのではないでしょうか。

飯野さん、今回はお忙しい中本当にありがとうございました!

下記に飯野さんの情報をまとめているので、気になる方や興味がある方はぜひチェックしてみてください!

▼個展情報
京都 Sophora:https://www.sophora.jp/2022-new-exhibition
東京 GALLERY RUEVENT:日程が分かり次第、URLを掲載します。

▼ピサンキ教室
開催日時はWEBサイトをチェック!
ピサンキ教室:https://www.studio-karakusa.com/class/

▼URL
Instagramメインアカウント:studio_karausa
Instagramピサンキ専用アカウント:pysanky_karakusa
公式サイト:https://www.studio-karakusa.com

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