前編では稲村さんのご経歴や10代の頃の体験など、興味深いエピソードの数々をお話ししていただきました。
後編では10代が抱える様々な悩みの対処法について伺っていきます。
困った時に助けてくれる仲間を見つけるべし
─先ほどの稲村さんのお話にもありましたが、10代のよくある悩みとして、人間関係があげられると思います。稲村さんは困った時、どうしているのでしょうか?
はい。まず一番は、自分が転んだときに手を差し伸ばしてくれる人を大切にすることですね。そういう人が生涯付き合っていく人になると思います。
気持ちよく褒めてくれる人はたくさんいるんです。例えば絵を描いたら「素敵だね」って言ってくれる人とか。でもそういう人が絵を買ってくれるとは限らないじゃないですか。
自分の耳に心地良い言葉を発してくれる人ではなく、困っているときに寄り添ってくれる人、そうした人に出会うことが大切だと考えています。
どうしても今はSNSが普及したこともあって、悩みがあったらSNS上の知り合いに助けを求める、という話も聞くじゃないですか。
もちろん、SNSも悪いことばかりじゃないんですよ。時には愚痴を言ってストレスを発散させるのも悪いことじゃないと思いますし、その中でできる関係もあると思います。
でも、それが全てだとは思わないでほしいですね。あくまでもネット上のつながりであって、「フォロワー数=知り合いの数」というわけではないですし、何かしらのトラブルに巻き込まれてしまうこともあり得ますから。
─勘違いしてしまいやすいところですよね。
ヘルプを出せる人間が身近にいるということが大事だと思うんですね。学校の先生に相談できればいいですけど、それができない場合は塾でもいい。
あとは根拠のない間違った情報も溢れているので、何が正しいのか精査する能力も必要だと思います。
それは何も子供だけに言えることではなくて、親世代も然りです。
─なるほど。
とはいえ、誰かにSOSを出すのができない人ももちろんいると思うんです。
実はNEONAVIのいじめに関する記事を中学生の娘と読んだことがあって。
─ありがとうございます!
で、読み終わった娘が言っていたのが、「もっと具体的な解決方法が知りたい」ということだったんですね。「周りの人に相談するのはもちろんそうだけど、相談できないから苦しんでいるんじゃないの?」と。
私もそういうタイプなので、気持ちはよくわかるんです。
わかるので、「じゃあどうすればいいか一緒に考えようか」って。
─すごく大切なことだと思います。
できる状態が当たり前の人からすれば、「なんでそんなことができないのか、やればいいじゃないか」ってなると思うんですけど。
そうではなくて、あることができないのならば、「何だったらできるのか」に思考をシフトさせるといいと思います。
「自分ができること」を生かす
─具体的なエピソードはありますか?
例えばうちの娘は福祉関係の学校に通っていたんですけど。
そんな中で児童相談所でアルバイトもしていたのですが、少し精神的に疲れてしまったみたいで、病院に行ったんです。そうしたら「色々なものと距離を置いた方がいい」と診断されて。
そこで「私はなにをしてあげられるだろうか」と考えたときに、「塾の先生をやってもらおう」と思ったんですね。娘は児童相談所の職員の方から「子供との距離感がちょうど良い」と褒めていただいたこともあったみたいですし、兄妹が多いのもあって子供の面倒を見ることは得意だったので。
で、いざ任せてみたら勉強を教えるのが意外に上手だったんです。それで、今でも持ち味である子供との距離感を生かしてうまくやってくれています。
─それはすごいですね。
向き不向きを考慮した上でできる仕事をしてもらうことが大切だと思いますね。
「やる気になればできる」は「やる気にならなければできない」
─「できない」を理由に終わらせてしまうのではなく、その先を考える。先ほどのお話にもあったところですね。
そういうことです。
私は高校を中退したのですが、それは早く遊びたかったからなんです。笑
学校でみんなと同じペースで3年間勉強するのではなく、自分で勉強して高卒の認定資格を取る方法を選びました。認定資格を取ったのは、この先自分が何かをやりたい時に、高卒の資格がないと試験が受けられないなど、不利になることがあると思ったからですね。
学校を辞めても、そこで終了じゃない。次のステップに行こうと思えばできるんです。でもそれはすなわち、自分で行動しなければできないということでもあります。ただ学校を辞めるのではなく、辞めるのであれば、その代わりになにをするのか、計画を立てることが大事だと思っています。
勉強でもなんでも同じで、「やる気になればできる」とよく言われますよね。でも本当に大切なのはそっちじゃなくて、「やる気にならなければできない」ということなんです。
─なるほど。たらればではなくて、しっかりリアルを直視して次に繋げるということですね。
はい。ある声優志望の生徒が通信制高校に通いながら、声優の養成学校にいくか迷っていたことがありました。
そこで私が言ったのは、「高校であればどこでもいい」という選び方をするのではなく、「今の自分の実力の2ランク上のところを目指しなさい」ということでした。
結果から言えば、その子はその2ランク上の学校に入ることができました。
ではどうしてそんなアドバイスをしたかというと、もし声優がうまくいかなかった時に、勉強がしっかりできていないと、将来の選択肢が限られてしまうと思ったからです。特に、10代の子は体力がありますから、どっちも全力でできる。2つのことを全力でやれば、プラスになることはあってもマイナスにはならないですよね。
もう一つは、簡単に手に入るものを選んでしまうと、手放すのも簡単にできてしまう、つまり楽をして得たものは諦めの口実になりやすいと考えていたからです。
もちろん、苦労は少ない方がいいんですよ。私も苦労したくないですし。笑
でも苦労してやっと得たものには、「あれだけがんばったのにやめてしまうのはもったいない」という心理が働くんです。
─確かにそうですね。
あれだけ頑張ったんだからここで諦めたくない
これは映画もそうなんです。「あれだけ頑張って撮影したんだからここで諦めたくない」という気持ちが原動力になっているんです。
やっぱり、世に出ている人ってすごく努力していると思いますから。
今では簡単に動画や音楽が作れるアプリやソフトがどんどん出てきてますけど、じゃあそれを得た次はどんなものを作るのか、というのが大切だと考えていますね。
ひと昔であれば、例えばホームページは作っただけで見てもらえるような雰囲気がありましたけど、それが今や素人でも手軽に作れるようになった。
映画に関して言えばカメラの値段もどんどん下がってきて、GoProや、なんならiPhoneのカメラでも撮れてしまう時代です。
だからこそ、いかに個人のキャラクターを押し出すか、専門性を身につけるかというのが必要になってくるのではないでしょうか。
─なるほど。置かれた環境は利用しつつ、その先は自分で見つけるということですね。
10代へのメッセージ
─それでは最後に、これから未来へに向かって羽ばたいていく10代のみなさんにメッセージをお願いします。
私は今好きなことを仕事にしていますが、ただ好きなことだけやってきたわけではありません。好きなことを仕事にするためには努力が必要で、私の場合は色んな仕事を通してお金を稼いできた背景があります。色んな仕事をしたことで、やりたいことの幅も広がりました。
でもやりたいことを見つけるのってなかなか難しいと思います。私自身、大人になっても右往左往することもありますし。
昔だったら「大工さんの子供は大工さん」とか、「親が営む工務店を継ぐ」といういわゆる後継ぎが一般的だったこともありましたけど、今は自由に選べる分、より難しいんだと思います。
振り返ってみると身近に商店街があって、魚屋さんのように〇〇屋さんと呼ばれる方達のプロフェッショナルな仕事ぶりを目の当たりにしていたことも良い経験だったと思うのですが、だんだんそういったお店が減ってしまい、プロが遠い存在になってしまいましたよね。
なので、やりたいことを見つけるプロセスとして、中高生のうちから職業体験をして、まずは「プロの仕事」を知ること、「どんな仕事があるのか」を知ることが良いと思いますよ。
─ありがとうございました!
▼前編はこちら
<プロフィール>
有限会社エイジア 代表取締役 稲村久美子
1967年生まれAB型。
子ども四人、猫5匹の母。
日本心理学会所属/認定心理士。映画プロデューサー。エイジア学習教室 教育相談員。
趣味はスキューバダイビング。楽器演奏(ピアノ他)
編集後記
稲村さんの最後の話にあったように、10代のみなさんがプロの仕事を実際に見る・知る機会は本当に少ないと思います。20代の編集部もそうでした。
職業体験をすると言っても、どうやって探せばいいの?調べてみると、地域の自治体などが主催しているものが意外にたくさんありました。いくつか選んでみたので、気になるものがあったら参加してみてね!
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