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まずはここから!吐息が白くなる前に読みたい、冬の短歌5首【短歌のすゝめ】

短歌の威力は計り知れない。

たった31文字を読むだけで、何かが変わるなんてありえない。そう思う人もいるだろう。

しかし、ひとたび短歌を読んでみると、知らぬ間に心を動かされている自分に気づく。

31文字という限られた字数の中には、言葉の数からは想像もつかないほど豊かな情景や心情が込められているのだ。

本記事では、冬を題材にした短歌を5首厳選し、それぞれの考察とともに、一首一首に詰まった魅力をご紹介する。

なお、短歌の捉え方は人それぞれであるべきだと考えるため、ここでは「解説」ではなく「考察」という言葉を用いる。

 

1.ごく当たり前の出来事こそが、ものすごく幸せだと気づく一首『サラダ記念日』

「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ

俵万智『サラダ記念日』

 

考察

寒さが本格的になって、どれだけ厚着をしても冷気が隙間をすり抜けて、体の芯までつんざいてくる時期のこと。「今日、寒いですね」なんて世間話は、もう誰もが幾度となく繰り返してきたことだろう。しかし、そんな何気ないやり取りの中にも、自分の言葉に誰かが応えてくれるという当たり前の幸せが隠れていることを、私たちはどれほど気づけているだろうか。「さむっ」と反射的にこぼれた言葉は、誰からも返事がなければ、簡単に独白に成り下がる。けれど、脆弱に吐き出された白い息に、誰かが優しく隣で呼応してくれることの温もりを実感することができれば、冬の寒さは少しだけ和らぐはずだ。身近な人と交わす、たった一言のやり取り。そんなごく当たり前の日常こそが、実はかけがえのない幸せなのだと、この歌は改めて思い出させてくれる。

 

2.見たこともない光景なのに、はっきりと脳裏に浮かぶ一首『シンジケート』

風の夜初めて火をみる猫の目の君がかぶりを振る十二月

穂村弘『シンジケート』

 

考察

12月。冷たい風の吹く夜に男女が二人。私の言葉に首を横に振った「君」は、まるで初めて火を見る猫の目のように怯えた表情で私を見つめている。一体何に怯えているのか。きっとこの二人は恋人とはまた違う、まだ曖昧な関係なのだろう。そしてきっと、私は「君」に恋をしている。人肌が恋しくなる季節、「ちょっといい感じなんじゃない?」という自信から「君」をデートに誘って、その帰り道に想いを告げたのだろう。あるいは、「この後うちに来ない?」などと大層に誘ってしまったのだろうか。私の想いに反して、一歩後退り、怖気付くような「君」の軽蔑とも取れるその表情……。初めて火をみる猫の目など一度も見たことはないはずなのに、その気まずい光景がありありと浮かんでくる。

 

3.無邪気な姿に愛しさを覚える一首『ラインマーカーズ』

体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ

穂村弘『ラインマーカーズ』

 

考察

連日の痺れる寒さで、幼い我が子が熱を出した日のこと。体温計をくわえている時は安静にしていろと言ったのに、少し目を離せばすぐ姿が見えなくなっている。どこに行ったかと思えば、窓に手をべったりとつけて真剣に外を眺めている。そして、なんとも騒がしい声で跳ねながら騒ぎ始めるのだ。その3文字は聞き取りにくいけれど、明るいトーンゆえにすぐに雪のことを言っているのだと気が付く。額の熱さで、冷えた窓は君に触れた部分からだんだんと結露していくが、それすらも気がつかないまでに熱心に外を見つめる眼の輝きは、その後ろ姿を見ただけでも、十分に伝わってくる。

生まれてから数年しか経っていない君にとって、雪は一つひとつが新鮮な驚きに満ちた体験なのだろう。「ゆひら」とはしゃぐ君と、それを聞いて「雪のことかよ」と軽く受け流す大人になってしまった私。同じ雪を前にしているはずなのに、二人の目に映る世界ははっきりと違う。

それでも、君の無邪気な姿には愛しさを覚えずにはいられない。そして、その姿を通して、かつて自分も同じように目を輝かせていたのかもしれないと思う。君のはしゃぐ声に、いつしか遠くなった幼い日の記憶が重なり、懐かしさが胸に広がるのだ。

 

4.永遠という言葉の矛盾を悟る一首『荻窪メリーゴーランド』

〈永遠〉の続きをふたり「ん」と漏らしながら吐息で考える夜

木下龍也、鈴木晴香『荻窪メリーゴーランド』

 

考察

眠れない夜のこと。しりとりを始めてから、いったいどれほどの時間が経っただろう。夜も更け、頭がほとんど回らなくなってもなお、二人はゲームを続けようとしている。しかし、ふと口にしてしまった言葉は「永遠」。しりとりが終わってしまう言葉であるにもかかわらず、二人はその続きを考えようとする。まぶたを閉じ、静かな深夜に、答えのない問いを前にしている。

そもそも、永遠とは終わりがないことを意味するのではないか。終わりがないはずのものに、続きなどあるのだろうか。〈永遠〉の先を考えるという行為自体、どこか矛盾が潜んでいる。しかし、ほとんど夢の中に足を踏み入れている二人は、どれだけ考えても次の言葉を思いつけないまま、口数が少なくなる。「ん」と漏れていた声は、やがて吐息へと変わっていく。

「永遠に続きますように」という願いがある。しかし、永遠を願うということは、今この瞬間がいつか終わる可能性を意識することでもあるのではないか。永遠を求めれば求めるほど、終わりの存在がちらついてしまう。ただの深夜の睦まじい光景にも見えるこの歌には、そんな矛盾を抱えたまま、誰かと時間を重ねていくことの儚さも感じられる。

 

5.特筆するまでもないワンシーンなのに、心が温まる一首『オールアラウンドユー』

雪が雪で白を更新する道にペヤングの湯でハートをえがく

木下龍也『オールアラウンドユー』

 

考察

突然降り始めた雪に耐えながら早足で少年がたどり着いたのは、無機質なLEDが灯るコンビニエンスストア。この寒さを乗り越えるにはもうこれしかないと息を呑み、少年は一個300円弱のペヤングソースやきそばに手を伸ばす。すぐにお湯を注ぎ、両手でしっかりと持つ。突然の熱さに少し驚くが、そのくらいがむしろちょうど良い。

とめどなく降りしきる雪を眺めながら、3分間待つ。「よくもこんなにも寒くしてくれたな、雪め」。ささやかな復讐心から、ペヤングの湯を雪にぶちまけてみる。すると、湯が当たったところだけ雪が溶け、アスファルトが顔を出す。想像以上にあっけなく溶けてしまう雪に、妙な優越感を覚える少年。少しの遊び心も手伝って、そこにハートを描いてみると、なんだか少しだけ心が満たされた気がした。

しかし、ペヤングを食べているうちに、ハートはまた少しずつ雪に覆われていく。せっかく描いたのに。いや、そもそも誰に見せるわけでもないのだけれど。そんなやるせなさを感じながら、少年は黙々と麺をすすっているのかもしれない。

たった31文字を読むだけで、そんな、どこかのティーンエイジャーの特筆するまでもない、くだらないワンシーンが脳裏に刻まれていく。しかし、歌に描かれているのは、雪の降る道にペヤングのお湯でハートを描くという、ただそれだけの光景だ。それなのに、少年の年齢も、雪へのささやかな反抗心も、誰に見せるわけでもないハートが消えていくやるせなさまで、いくらでも想像できてしまう。

もちろん、実際の少年がこんなことを考えていたかどうかはわからない。そもそも、少年がいたのかどうかさえわからないけれど、それでいいのだ。たった一首の短歌から、ここまで勝手に想像を膨らませてしまう。そんな自由さこそが、短歌の面白さなのだから。

 

おわりに

短歌を読むことは、想像力を膨らませることだ。

ときには、これまでの経験や想像力が足りず、歌に込められた情景や心情をうまく読み取れないこともあるかもしれない。しかし、短歌の解釈に、たった一つの正解があるとは限らない。むしろ、解釈が一辺倒になってしまうのなら、短歌という表現の豊かさは失われてしまうのではないだろうか。

人それぞれに異なる解釈があるからこそ、誰かと語り合う意味があり、その違いを分かち合う喜びが生まれるのだ。

今回紹介した5首は、平安時代から続く短歌の長い歴史の、ほんの一端にすぎない。それでも、この記事があなたの心に何かを残し、歌集を手に取るきっかけになったなら嬉しい。

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