
「映画」に送る一通の手紙
初めまして、新しく記事を書かせていただくことになりました。武藤聡一朗と申します。
文学部でフランス文学を専攻している、映画・ドラマなどの物語を描く脚本家を目指す大学生です。
読者の皆様に届く初めての記事を書くにあたって何を書けばいいのかと悩みましたが、今後公開させていただく記事が主に特定の映画などに集中していくため、本記事では私自身が愛してやまない「映画」そのものの魅力をここに綴りたいと思います。
目次
映画を見る理由
多くの配信サービスの普及によって非常に身近に感じる数多くの映画やドラマは、今や消費されるエンタメの一種、時間を潰すための商品のように捉えることができると思います。
エンタメの一種であることは間違っていないにしても、私たちはなぜ映画や演劇という虚構を観たいと思うのでしょうか。
脚本家の井川公彦さんは、「人間には他の動物にはない、食欲、睡眠欲、性欲の他に、“同情欲”という本能がある。善悪の問題ではなく、人が生まれながらに有する、赤の他人に「同情したい」という本能がなせる業がある」と書いています。
つまり虚構のドラマは、お腹が減って食欲が湧くのと同じように、架空の人物に同情したいという人間の枯渇しそうな同情欲を満たすためにあるのです。
映画っていうのは、スクリーンという一つの媒体を通して、世界中の人がそこへ出てきた人と一緒に生きて、一緒に苦しんだり悲しんだり何かをしてお互いを理解する、そういう特別な機能を持っていると思うんですね。それが映画の一番素晴らしいところだと思うんですよ。そのためには映画の美しさというものを通してみんなに理解してもらわなきゃなんない。(黒澤明)
この考えは、映画評論家ロジャー・イーバートの言葉とも深く重なります。彼は「映画は共感を生み出す機械だ」と語りました。スクリーンの向こう側にいるのは、私たちとは年齢も国籍も境遇も異なる他者であり、それでも観客は、その人物と一緒に笑い、傷つき、喪失を経験します。映画は物語を見せる芸術である以前に、他者の人生を体験させる芸術なのです。
現実の人生で、私たちは一つの人生しか生きることができません。しかし映画は、老人にも、子どもにも、犯罪者にも、英雄にも、あるいは孤独な誰かにもなることを許してくれます。その二時間の追体験によって、私たちは自分の知らなかった感情や価値観に触れ、世界を少しだけ広く理解できるようになります。
情報が交錯し、さまざまな価値観が存在する中で私たちの“同情欲”は深まっていく一方だと思います。
単なる「時間潰し」と思って見ていたドラマや映画は、あなたの潜在的な同情欲を満たしてくれていたのかもしれません。
映画の美しさ
では、黒澤明が上で述べた、映画の「美しさ」とは何なのでしょうか。
私は、普段なら見過ごしてしまう「一瞬」に意味を与えること、が映画の美しさだと思います。
普段であればただ過ぎ去っていく時間そのものが、人間の感情が宿ったシーンになり、何よりそれを追体験させてくれるのが映画が持つ最大の力であると思います。
例えば、誰かが振り返る数秒間や、言葉を飲み込む沈黙、窓の外を流れる夕焼け。それらは現実では何気ない出来事にすぎません。しかし映画は、カメラの眼差しと音楽、俳優の息遣いによって、その一瞬を観客の心に刻み込まれる「時間」へと変えてしまいます。
そして、「時間」へと変化した一つの何気ないシーンを、どのような美しい映像として捉えるかは、監督や脚本家によって異なります。したがって、映画を鑑賞しているときに「綺麗」と感じる美しい映像とは、単に構図や色彩が豊かであるだけではなく、登場人物の感情が宿った「時間」を、そのまま切り取ったように感じられるシーンなのかもしれません。
少しでも日常を美しくてくれる点こそが、映画の尊い力であると強く思います。
映画は時に人を救う
「娯楽」として捉えられがちな映画ですが、とある映画に救われた経験はないでしょうか。
大切な誰かが亡くなってしまった時、友情を裏切られたり、仕事が行き詰まったり、将来のことで悩み苦しんだり。そんな人生の底にいるとき、一つの映画が「自分だけではなかった」と教えてくれることがあります。スクリーンの中の人物は私たちを励ますわけでも、正解を与えるわけでもありません。ただその物語の苦悩の中を生きていく懸命な姿を見せてくれる。その懸命に足掻く姿に私たちは同情・共感をしてそっと救われるのではないでしょうか。
具体的に言えば、2019年公開のアメリカ映画「Booksmart」という映画は高校生の頃の自分を救ってくれました。
映画そのもののレビューはここでは行いませんが、学内の友情でちょっとした問題が起きた時、どう対処していいかわからなかった自分はこの映画を鑑賞し、心が落ち着いたということを今でも覚えています。今となってはこの友情の拗れは私が過ごした青春の1ページとなり、この映画がそばにいてくれたからこそ良き思い出へと昇華した気がしています。青春コメディ映画で非常に見やすい作品でもあるので、とてもおすすめです。
最後に
映画というものは単なる時間潰しではありません。私たちが生きる何気ない瞬間を芸術的な瞬間へと昇華させ、様々な価値観や物事への向き合い方を提示してくれる、時として人生の生き方を教えてくれる数少ない芸術の形だと思います。
映画がいつでも私自身、そしてあなたのそばにいてくれますように。
今後ともよろしくお願いいたします。
武藤聡一朗

この記事へのコメントはありません。