自転車の違反にも【青切符】が適用される|道路交通法改正(2024年5月17日可決成立)を解説
自転車の交通違反に対して自動車運転者と同じように「青切符」が適用することなどを内容とする道路交通法が改正(2024年5月17日可決成立)され、自転車に係る交通違反の取り扱いが大きく変わることになりました。
目次
第1 改正の概要
道路交通法改正の趣旨
身近な交通手段である自転車ですが、悪質な交通違反や交通事故が多発傾向にあることなどから、自転車の交通事故防止と安全な利用の促進、法令順守意識の向上などを図ることを目的に道路交通法が改正されたのです。
主な改正点
今回の主な改正点は、
- 自転車等に対する交通反則通告制度(青切符)の適用
- 携帯電話使用等及び酒気帯び運転の禁止
- 自転車等の左側寄り通行義務等の新設
などです。
また、自転車関連以外では
- 原動機付自転車等の明確化
- 普通仮運転免許等の取得年齢要件の引き下げ
なども含まれています。
第2 自転車等に対する交通反則通告制度(青切符)の適用
自転車の交通違反の検挙件数が増加していることから、これまでの自転車に対する交通違反処理(刑事手続き)では、取締り現場での長時間の手続や後日検察庁等への出頭、さらには裁判手続きにより自転車運転者(違反者)の負担が大きくなること、また違反行為に応じた罰則を受けると「前科」が付く可能性もあることなどから、自転車等の運転者(16歳未満の者を除く。)が行った一定の違反行為を交通反則通告制度(いわゆる「青切符」)の対象とし、その手続きの合理化を図ることにしたのです。
交通反則通告制度とは
まず「交通反則通告制度」について説明します。
この制度は「青切符」といわれる「交通反則告知書」と「納付書」により交通違反を処理するものです。
道路交通法に規定されている違反行為のうち特に軽微なものについては、直ちに刑事手続きをとらず、まずは交通反則通告制度(青切符)で違反を処理し、違反者が通告に従って反則金を納付した場合には刑事手続きに移行せず終結するという制度です。
下図のように、あらかじめ法律(道路交通法施行令)で「反則行為」と「反則金額」を定めておき、反則行為に該当する違反があった場合に、警察官は違反者(これは制度上は「反則者」という)に対して「反則告知」を行います。
この反則告知とはいわゆる「青切符」を作成・交付することで、あわせて「反則金の納付」を通告(反則金納付のための納付書を交付)します。
指定の期日までに反則金を納付した場合には、この段階で違反に対する処理は終わりになります。
しかし反則金の納付を行わない場合には「不納付」として必要な補充捜査等を行い検察庁に書類送致され刑事手続きが始まります。
書類送致を受けた検察庁では、改めて必要な捜査を行い、起訴・不起訴の判断をします。ここで起訴されると刑事裁判の手続きに移ります。
最終的に有罪か無罪か、有罪の場合には量刑が決められることになります。
交通反則制度の対象となる違反
具体的には、今後行われる道路交通法施行令の改正により反則行為と反則金額が定められることになるが、青切符対象の違反行為(反則行為)として113種類程度、それ以外の赤切符対象が飲酒運転、妨害運転(危険運転等)など24種類となる予定です。
交通反則通告制度対象年齢
交通反則通告制度(青切符)による取締りの対象となるのは16歳以上の自転車利用者です。
16歳以上となったのは、最低限の交通ルールを知っていると考えられること、原付免許などを取得でさる年齢であること、そして、特定小型原動機付自転車(電助キックボード等)を運転できる年齢であることなどを考慮したということです。
第3 その他の改正
携帯電話使用等及び酒気帯び運転の禁止
自転車を運転中に携帯電話使用等を使用するいわゆる「ながら運転」による交通事故が増加傾向にあることや自転車を酒気帯び状態で運転したときの死亡重傷事故率が高いことなどから、自転車の運転中の携帯電話使用等及び酒気帯び運転を禁止することとなり罰則規定が整備されました。
自転車の携帯電話等の使用は、これまでは各都道府県の条例等において個別に禁止していましたが、今回の改正で道交法第71条の「運転者の義務」として、自転車運転者も禁止され罰則が適用されることになりました。
罰則は6か月以下の懲役または10万円以下の罰金です。
また、自転車の飲酒運転は従来より禁止されていたが、自転車の場合は酒酔い運転だけが罰則の対象であり、酒酔いに至らない程度の「酒気帯び運転」については罰則がありませんでした。そのため、自転車だから大丈夫だと飲酒運転をする自転車が後を絶たず交通事故も多かったのです。
今回の改正で自転車の酒気帯び運転についても罰則が適用されることになりました。
罰則は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
また、自転車運転者に酒類を提供したり、飲酒運転の教唆や飲酒者に自転車を貸すなどのほう助行為も罰則が適用されることになったので、自転車を利用しない人も注意が必要です。
自転車等の左側寄り通行義務等の新設
同一の方向に進行する自動車等と自転車の事故のうち、自転車の右側面が接触部位となる事故の割合が増加にあることから、安全を確保するため自動車運転者と自転車利用者の双方に新たな義務が設けられました。
自動車等が自転車等の右側を通過する場合に十分な間隔がないときは、
- 自動車運転者は、自転車等との間隔に応じた安全な速度で進行しなければならない(第18条3項)。
- 自転車等の運転者は、できる限り道路の左側端に寄って通行しなければならない(第18条4項)。
とされました。なお十分な間隔については別途定められます。
つまり自転車の場合、右後方から後続車が来たらできる限り道路の左側端に寄よらなければならないということになります(罰則:5万円以下の罰金)。
※ここでの自転車等は、自転車及び特定小型原動機付自転車等をいう。
原動機付自転車等の明確化
電動アシスト自転車や特定小型原動機付自転車(電動キックボード等)の類似品であるいわゆる「電動バイク」(「モペット」ともいわれる)は、動力だけでも走行することができ、また自転車のようにペダルを踏んで人力でも走行できたことから、法令上その車両区分があいまいでした。
そのため利用者が誤った認識と誤解のもとに購入し、使用しており、結果として交通違反や交通事故が発生していました。
そこで今回の改正では「原動機に加えペダル等を備えている原動機付自転車等」をペダル等によって走行している場合でも「原動機付自転車等」の運転に該当する、つまり原付免許等が必要になることが明確にされました。
すなわち自転車として使っていても、切り替えることで動力だけでも走行できるモペットや電動バイクといわれるものは、あくまでも原動機付自転車等であり原付免許などが必要であるということです。
この種の電動バイク等を保有してる人は念のために確認してみましょう。
普通仮運転免許等の取得年齢要件の引き下げ
これまでは準中型免許や普通免許(以下「普通免許等」という)を取得しようとする場合、仮運転免許試験も18歳以上にならなければ受験することができませんでした。
そのため早生まれの人は高校卒業までに普通免許等を取得することができず、就職等にも影響があるといわれていました。
そこで今回、普通免許等の仮免許の受験資格を17 歳6か月に引き下げられました。
第4 改正法の適用の時期
改正法の施行時期は、以下のように準備ができたものから順次実施されることになっています。
〇 公布から2年以内(2026年5月まで)に施行されるもの
- 自転車等への比較的軽微な交通違反への交通反則通告制度(青切符)の適用
- 自転車等の左側寄り通行義務等
- 普通免許等の仮免許の取得可能年齢を18歳から17歳6ヵ月に引き下げ
〇 公布から6ヵ月以内(2024年11月まで)に施行されるもの
- 自転車の運転中のスマートフォンなどの携帯電話の使用及び酒気帯び運転の禁止など
- いわゆるフル電動バイクを「原動機付自転車」とみなす区分の明確化
おわりに
交通反則通告制度が適用されるのは「2年以内の施行」ということでまだ時間があるように感じますが、6か月以内に施行される「ながら運転」の禁止など、罰則が新設・強化されるものもあります。
自転車を利用する人は、今から新設又は改正されたルールはもちろんですが、従来の道路交通法のルールを学び、順守する習慣をしっかり身につけておくことが必要です。
自転車利用中の悲惨な交通事故を防止するとともに、自らが加害者となり、また交通違反者として交通反則通告制度(青切符)の適用対象として反則金の納付を命じられたりすることのないようにしていただきたいですね。
自転車を利用する家族や友人にも情報を共有し、安全な利用に努めてください。
<参考>改正道路交通法の内容(国会提出時の案):https://www.npa.go.jp/laws/kokkai/index.html
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