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「生涯賃金」とは?就活に向けた職業選択の視点

「生涯賃金」という言葉は知っていますか?

これから就職をしようとする人は、「生涯賃金」ということを意識しながら職業を選択してみませんか?

生涯賃金とは

多くの社会人は生活のために労働し、その報酬として賃金を得ています。

生涯賃金とは、生涯年収とも言われ、一生涯で得ることのできる賃金の総額のことをいいます。ボーナスや残業代が含まれるほか、退職金を含む場合もあります。

一般的には、生涯賃金は新卒から定年までの間の収入を指します。しかし、現在では定年退職後に再就職する人も多くなってきています。そこで「一生涯で得る賃金」という概念から、新卒採用時期から平均寿命までに得る金額を勘案すべきと考える人もいます。

人それぞれ生き方が異なるように、働き方もさまざま。学校を卒業して就職をする人もいれば、フリーターやアルバイトなど非正社員となって生計を立てていく人もいます。また、一旦就職しても家庭の事情で退職して家業に就く人、独立する人などもおります。

将来的には企業等の定年は70歳、75歳と延長されることになるかもしれません。いずれにしても今後、働き方は違っても、労働する期間が長くなると思います。その結果、退職金支給額を加えた「生涯賃金」は正社員と非正社員で差が大きくなることが推察されます。

職業選択時に考えてほしいこと

最初のうちは会社勤め、その後実家の家業を手伝うとか、フリーターをしながら自分に適した、自分がやりたいと思える仕事を探す、企業に勤めてスキルアップしてから独立したい、フリーターのままでよいなど、考え方はいろいろあると思います。

しかし、好きなこと、やりたい仕事を選択することもよいですが、職業を選択する際にちょっと考えて欲しいことがあります。

それは、

  • 生涯賃金をどうイメージするか
  • 老後の年金の支給額をどう考えるか
  • 仕事中のけがなどの治療費や休業中の収入をどうするか
  • 万が一仕事中に他人に傷害や損害を与えてしまった場合にはどうする
  • 家族を持った際の生活をどうイメージするか

などです。

「老後なんてまだまだ先、考える必要が無い」と思っている人や「家庭を持ったら夫婦で働けばなんとかなる」などと思っている人もいるかもしれませんね。

しかし、人生設計を考える上で職業と生涯賃金、年金支給額には密接な関係があるのです。

正社員とそれ以外の労働者の待遇等の比較

お金のことはあまり言いたくはないのですが、しかし人が生きていく上で必要なのは生活するためのお金ではないでしょうか。

これに関して、厚生労働省から「就業形態の多様化に関する総合実態調査の概況」が公表されています。

この統計では、正規社員(正社員)とフリーター等(正規社員以外の労働者)という区分で統計をとっています。

賃金の比較

男性では、20歳代では両者にはあまり差はないが、年齢が上がるにしたがって給与格差が大きくなり50~60歳のころ格差が最も大きく二倍になっています。また女性の場合も最大2倍の差があります。

これは、フリーター等非正社員は正社員に比べて昇給しにくい、賞与がもらえない場合が多いことから、加齢に伴って年収差が開いていき、結果として生涯賃金(収入)の差にもつながっているのです。

グラフ, 折れ線グラフ

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※厚生労働省の「令和元年賃金構造基本統計調査 一般労働者 雇用形態別」の第6図

また、労働政策研究・研修機構の「ユースフル労働統計 2022」に掲載されているデータ(図21-1、図21-5)では、正社員とフリーター等の生涯賃金には約1億円の差があるとのことです(退職金を除く)。

グラフ, 棒グラフ

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社会保険の比較

社会保険とは、被保険者・被扶養者が病気や怪我をはじめとする出産や高齢、介護、失業、労働災害などのリスクに対して、生活を保障する公的な保険制度です。

社会保険は、健康保険・厚生年金保険・介護保険・雇用保険・労災保険の5つの保険の総称です(広義の社会保険)。この中で厚生年金保険・健康保険・介護保険の3つを指して「社会保険」と呼ぶこともあります(狭義の社会保険)。

また、雇用保険と労災保険は、まとめて「労働保険」と呼びます。※下図参照

グラフィカル ユーザー インターフェイス, アプリケーション

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これらに関しても正社員、非正社員別の制度の運用状況(下表:各種制度の運用状況)をみると雇用保険、健康保険、厚生年金、企業年金などの各種制度が正社員向けには充実していますが、フリーター等非正社員に対しては低調です。

健康保険はいわゆる協会けんぽなど企業対象の健康保険ですが、非正社員に適用する企業はまだ少なく、非正社員は国民健康保険に加入することになります。

一般的に企業の健康保険は、扶養制度等が充実している、保険料が国民健康保険よりも安価な場合が多いです。(国民健康保険は住居地ごとにことなる)。

このようなことからも正社員との関係において、生涯賃金(収入)はもちろん、年金支給額、傷病時の医療保険制度、休業時の補償などに大きな格差が生じることになります。

また、企業の健康保険は給与天引きで手間いらずですが、国民健康保険税や国民年金保険料は、個別に納付しなければなりません。

テーブル

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退職金・賞与制度の運用状況

上記の表(各種制度の運用状況)のように、退職金制度はフリーター等非正社員に対し支給制度が設けられている企業はわずか13.4%と少なく、賞与支給制度も38.6%と低調です。

また、制度が設けられていても、実際の支給額は数万円程度からという企業もあるようです。

年金受給額にも差が出るの?

これも先ほどの表のように非正社員は厚生年金などの上乗せ年金の制度の対象になっていないところが多く、将来受け取る年金は国民年金(基礎年金)だけということになります。それゆえに厚生年金受給者との間に年金額に差が生じてしまいます。

「将来年金なんてどうなるかわからない」という方もいるかもしれませんが、いろいろ制度改革が行われても廃止されることはないでしょう。

ちなみに日本年金機構が公表する「令和6年4月分(6月14日(金曜)支払分)からの年金額」によると、令和6年度の国民年金の月額は6万8,000円(1人分)、厚生年金(夫婦2人分)の月額は23万,483円です。

厚生年金を1人分に換算すると約11万5千円なので、国民年金の受給額とは倍近い差があることが分かります。

※1 令和6年度の昭和31年4月1日以前生まれの方の老齢基礎年金(満額)は、月額67,808円です。

※2 平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)43.9万円)で40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))の給付水準です。なお厚生年金は在職中の賃金や在職期間などによって支給額が変わってきます。

労災等の比較

多くの企業では正社員は労災保険に加入しているので、通勤時の事故や労働災害などによって負傷した場合には労災保険が適用され、休業補償や生活などが補償されます。

しかも労災保険の掛金は雇い主が1/2を負担することになっています。

しかし非正社員に対しては非加入の企業もまだまだ多いようです。

フリーター等非正社員は大変?

以上記載したように正社員と非正社員とに生涯賃金や処遇等に開きがあることから、一般的な人はなかなかフリーター等非正社員として人生を送ることは大変ですね。

とはいえ、現にフリーター等非正規社員として生活している人が多いのも確かです。

職業選択は自由なのでフリーター等非正社員での生活を否定はしませんが、一般的な人生設計として、就職、結婚、出産、育児(子育て)、子供の学校、子供の結婚、年金暮らし、終活という流れをどう考えるかということも大切でしょう。

非社員からから正社員になるのも大変

一般的には学校卒業時のスキルはあまり高いものではありません。可能な限り企業に正社員として就職し、企業等において自分のスキルを磨き、将来的に独立を考えるということもあるかもしれません。

一方で非正社員から正社員になるのは大変のようです。独立行政法人 労働政策研究・研修機構の労働政策研究報告書 No. 199 「大都市の若者の就業行動と意識の分化-「第4回 若者のワークスタイル調査」から-」によると、「フリーターが長くなると就職しにくい傾向とある」という状況を説明しています。

報告書中の図表6-34は、フリーター継続期間と、正社員になろうとした者のうち正社員になれた者の割合との関係をグラフにしたものです。グラフ, 折れ線グラフ

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この報告書ではさらに、

  • フリーター継続期間が 1 年を超えると、正社員になれる割合は明確に逓減していく。
  • 4 年を境として正社員になれる割合は再び急落する。
  • 女性の場合は 4 年以上で下げ止まりだが、男性の場合は 4 年~ 5 年と 5 年以上でも 20 ポイント以上の差がある。
  • 全体として、フリーター継続期間が 1 年以上にな ると正社員になれる割合は低下していき、その閾値は 1年と 4年であるといえる。

というように記載しています。

もしフリーター等の非正社員の人で正社員を希望する場合には、早めに正社員となることが望ましいです。

まとめ

学校卒業後の人生設計を早めに考えて対応していくことが必要です。

自分がやりたい仕事を選んで、活き活きと仕事にとりくんでいる人、自分の好きな仕事を選んだのに、「こんなはずじゃなかった」とやめてしまう人、転職する人、あまりに忙しく病んでしまう人など出発点でイメージしたとおりにはいかず挫折する人がいるなど様々です。

まずはメリットやデメリット、リスクなどを知って、職業を選択することが大切ですね。

<参考>

日本年金機構:令和6年4月分からの年金額等について

ユースフル労働統計2022

労働政策研究報告書No.199 全文

雇用形態別にみた賃金

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