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映画『藍反射』エグゼクティブ・プロデューサー稲村久美子さんが語る、物語で"優しく訴える"ことの美学と創作の原動力【NEONAVI独占取材】

アジア最大級の規模を誇る東京国際映画祭のウィメンズ・エンパワーメント部門に公式出品を果たした映画『藍反射』は、インディーズ映画ゆえの型にはまらない優しい空気感を放ちながらも、確固たる問いを社会へ投げかける。

 

そんな『藍反射』の魅力に迫るべく、今回NEONAVIではキーマンの一人であるエグゼクティブ・プロデュサーの稲村久美子さんに独占インタビューを行った。映画プロデューサーとしてだけでなく、有限会社エイジア代表取締役や市議会議員、心理士としての顔を持ちながら幅広く活躍する稲村さんの佇まいが映画にどのように反映されているのか、そしてその「原動力」がどこからくるのか。監督の野本梢さんやプロデューサーの千種ゆり子さんとの切磋琢磨の中で、劇場公開に至るまでの長い道のりを詳細に語っていただきました。さらに、タイトル『藍反射』に込められた想いについては野本梢監督にもお話を伺いました。

 

鑑賞前の予習のためにも、鑑賞後の余韻に浸るためにも、必読のインタビュー記事です。

 

インタビュー本編

エグゼクティブ・プロデューサーとは「全責任を負う立場」

ー本日はよろしくお願いします。ではまず、エグゼクティブ・プロデューサーという名前はなかなか聞き慣れないということで、どんなことをされているのかお話をお伺いできればと思います。 

エグゼクティブ・プロデューサーは、映画において全責任を負う立場のことです。今回はプロデューサーと区別するためにエゼクティブ・プロデューサーにならせていただきましたが、普段は野本さんと2人で監督とプロデューサーという形でやっています。

具体的には資金調達であったり、スポンサーをつけたり、今回の撮影では小物類も私が用意した部分があったり、撮影に関わる全般を担当します。インディーズ映画なので割と自分たちでいろんなことをやっているところがあります。聞き慣れないので割と見逃してしまうこともあるかと思いますが、映画を観ていると実はエグゼクティブ・プロデューサーというのはよく出てきます。

 

東京国際映画祭への公式出品を受けて

ー『藍反射』はインディーズ作品とは思えないほどの見事な完成度が印象的でした。本作は東京国際映画祭にも公式出品されましたが、当初から同映画祭への出品を視野に入れて制作されていたのでしょうか。

もちろん、東京国際映画祭で上映されたら嬉しいよねとは言いつつも、長編映画の出品できる映画祭は限られているんです。本当に行けたらいいよねって半ば夢のように語っていたら、野本さんが「私が稲村さんをレッドカーペットに連れて行きます」と言ってくださって。

ー決まった時のお気持ちはどうでしたか。

もちろんそこに行けるような形でしっかり作り込んだ自信はあったにせよ、びっくりしました。商業映画もたくさんある中で、そのキャストさんたちと一緒に歩いた時は本当にドキドキしました。賞を取れる作品を作ろうと思っていても、受験と同じで、なかなか自分たちがそこに行きたいからって絶対入れるというわけではない中で、今回は皆さんに観ていただくことができて、感無量でした。

 

問い続け、最適解を模索し続ける推進力

ー本作の企画はプロデューサーの千種さんの発案とのことですが、その経緯について詳しくお伺いできますか。

まずは千種さんから野本さんにお話がありました。もっと早く病院に行っていればよかった、あるいはもっと深く考えていれば――というご自身の思いを、多くの方に知ってほしいという千種さんのお話を伺い、プロデューサーとして参加することにしました。

あくまでも私と野本さんが作っているのはドキュメンタリーではなく物語なので、千種さんに起きたことをそのまま映画に落とし込むのではなく、それを基にどんな作品にできるかというところをよく話し合いました。3人で事前の打ち合わせを何度もしたので、撮影に取り掛かるまでに半年ほどかかってしまいました。

ー物語の構想はいつ頃からありましたか。

2023年に野本さんがはじめにストーリーを投げてくれて、同時にクラウドファンディングを始めました。これまでの作品と同様に「ここはこうではないか」「この展開はどうだろうか」というやり取りを重ね、脚本が決まるまでにお互いに何往復もキャッチボールをしました。最初の段階ではト書きがない状態からシーンを思い描いて進めていかなければならないので、非常に長い時間をかけて物語を練り上げていきました。

ー撮影中にも悩ましいところはありましたか。

撮影ももちろん最初にできた脚本で全てがうまくいくわけではないので、撮りながら試行錯誤を重ねることで作品を成長させていきました。それと、実はラストシーンは一度制作を止めているんです。

ーラストの展開を変えたということですか。

変えました。映画って、キャストさんたちの動作とかは撮ってみないと分からなくて、野本さんや千種さんとラストの構想を練りながらもずっとどう終わらせるか決めかねていました。でももちろん上映も早くしたいし、もう一回撮り直しをするにしても、お金がかかる。それでも、野本さんが納得いくまでやり続けるべきだと思い、そこでゴーを出すのもプロデューサーの仕事なので、お話を重ねていくうちにラストをもう一度撮り直す決断をしました。

ー現場の雰囲気や空気感などがあって、こういう流れがいいんじゃないかという発想が作りながら生まれたのでしょうか。

作品をある程度撮っていっても、このラストでいいのかなっていう話をずっとしていました。映画の撮影って、寝泊まりを共にする日があるくらいすごく長い時間一緒にいるので、そういう中でラストが決まっていきました。それでも、最後に結論を出してくれるのは監督自身なので、そこはしっかりと時間を取りました。一旦オールアップという形を取りながら。

 

やりたいことを諦めずに、繋げていく力

ーなるほど。少し話が逸れますが、稲村さんは市議会議員や塾の経営者としてもご活躍もされていますよね。ここまでは映画のエグゼクティブ・プロデューサーとしての稲村さんのお話を伺ってきましたが、他のご職業とのバランスはどのように取られていますか。

撮影時はまだ議員はやっていませんでした。訴えたいことを世間に届けるのはなかなか難しいと実感して、一旦オールアップがかかったところで、そこから数日後に始まった選挙に立候補しました。本来なら皆さん事前活動をするんですけど、私は何もできずに選挙に入って。でも、無事に受かることができました。

ー凄いですね。本当にアグレッシブなパワーをお持ちで。

映画も会社経営も全部バラバラに見えるかもしれませんが、繋がっているんです。訴えたいことがあって、映画を撮ったり、議員をやる。どうしたら形になるかということを常に意識しています。映画は映像で、議員だったら議会ですね。

ーアウトプットの方法が違うだけで、伝えたいことは一貫しているのですね。

いろんな考えがある中で、私の場合はその候補が割と経験に基づいていて。映画も専門知識が必要だったりするので、野本さんとの過去作『次は何に生まれましょうか』では心理士としての立場から脚本を書いてみたりもしました。

ー多方面から得た知識を、様々な分野に応用されているということですね。どうしてそんなにもたくさんのことに諦めず挑戦できるのですか。

やりたいことをやっていくのに、何かを切り捨てるってちょっと違うと思っていて。それで増えていっちゃった感じです。

ー全てが納得のいく形まで洗練されているのが、本当に凄いです。稲村さんのひたむきな姿が本作『藍反射』にもよく反映されていると感じました。

 

「押し付ける」のではなく「染みる」映画にしたい

ー『藍反射』は痛みをすごく丁寧に描いた作品だと思います。病院へ診断に行くことについて、ネットや学校なんかで知識を得る時はなんだか構えてしまうのですが、この作品にはそんな抵抗感が一切無いように感じました。映画という形で届けることの強みはなんだとお考えですか。

野本さんの作品は、映画を観た後に対話が生まれることが魅力で、今回もそのきっかけを作りたいという話がありました。私たちは10年近く一緒に作品を作っているのですが、「対話を生む」ことが一つの目的です。観終わった後に、一緒に観た方とお話をしてもらうこと。

そのためには、押し付けがましくならないような作品にしたいと思っていて、野本さんの作品は今回もちゃんと優しく訴えてくれました。

私や千種さんが思いを伝えると、ちゃんと物語に落とし込んで作り上げてくれるのが、野本さんの力です。ドキュメンタリーじゃなくて、物語という形に気持ちを組み込んでくれる。だからこそ、私は野本さんと作品を作りたいと思います。

ー素晴らしい関係性ですね。100言わなくても10言えば分かってくれると言いますか。

それです!さりげなく映像に落とし込んでいく力。もしかすると気づかない人もいるかもしれないけど、実は一つひとつの細かいところにメッセージが隠れています。野本さんはものすごい観察眼の持ち主なので、誰かがふと話したことを受け止めて、自分の身になって考えてストーリーに落とし込んでくれるんです。

ー本作品は、女性にまつわることを描いているので男性目線だと少し理解しにくいところもあるかと思ったのですが、映像化する上で難しいところはありましたか。

実際、反応は真っ二つですね。何これって思っちゃう人ももちろんいると思います笑。でも、100人が観て100人に良かったと言ってもらう必要はないと思っています。この映画が響いた方から広がって、そこから対話が生まれたり、映画でこんなことを伝えてもいいんだって感じてもらったり、いろんなことへ波及してくれたら嬉しいです。例えばパートナーに作品の話をしてくれてもいいですし、わからない人がいたとしても、わからないままで、それはそれでいい。確かにわかってもらえたら嬉しいけど、押し付けるのではなく、染みてくれたらいいなって思います。

 

タイトル『藍反射』に込められた想いとは?

ーここで監督の野本さんにお聞きしたいのですが、『藍反射』は元々『わたしかもしれない(仮)』という名前で制作されていました。現在のタイトル『藍反射』に決めたきっかけはなんですか。

野本さん:プロジェクトが立ち上がった段階では、自分の身体に目を向けてほしいとか、婦人科検診に行くための背中を押す作品になったらいいなという気持ちで『わたしかもしれない(仮)』というタイトルをパッとつけたんですけど、メッセージを直接タイトルに掲げてしまうと、映画の解釈の幅が狭くなってしまう気がして、いずれ変更したいと思っていました。なのでずっと(仮)をつけてやってたんですけど、みんなだんだんそれに馴染んできちゃって笑。

ーなるほど笑。たしかに、旧タイトルもとても印象的です。結果的に正式タイトルは『藍反射』になりましたが、このタイトルに込められた想いをお聞きしてもいいですか。

野本さん:千種さんとタイトルについて話していた時に、主人公のはるかは自分で検査に行って治療をしていくというよりは、他者を心配している中で自分の身体にも意識を向けるようになるという話なので、そこに反射が起きている気がして、そういうイメージのある言葉にしたいとなりまして。「反射」が入る言葉をいくつか挙げていたら、「乱反射」というワードが出てきました。生理の日のことを「ブルーデイ」と言ったりもするので、青に近いイメージの言葉を入れようと思い、藍色の「藍」を「らん」と読ませて『藍反射』に決まりました。

ーそんな経緯だったのですね。一方で英題『About Me』は、旧タイトル『わたしかもしれない(仮)』に近い気がするのですが。

野本さん:『blue reflection』とか、邦題に寄せた英題も考えていたんですけど、そこは千種さんの意向も強くて、元のタイトルの要素も残したいという話になり、英題はストレートに『About Me』にしました。

ーありがとうございます。

 

言葉ではなく「声」で伝える、エンディング曲「Echoes of Life」について

ー稲村さんはバンド活動をされていたとのことですが、好きなことを直接好きというのではなく、表現を変えて想いを伝えるという点では映画作りは曲作りとも共通するものがあると感じました。

以前、バンド活動をやっていて、今回の楽曲は私がその頃知り合ったTAKEYAくんが手がけてくれたものです。

ー主題歌というと、必然的に歌詞が入ってくると思っていたらハミングだけだったのが衝撃的でした。でも、ラストシーンとの重ね合いがすごく印象的で、ストーリーを想起させるような働きがあるなと。

エンディング曲はもともと「インストの楽曲で」と野本さんから言われていたのですが、10代、20代あたりの生きる力というのを曲で伝えたいなと思いまして。少女から大人になっていくところですね。そのイメージをTAKEYAくんに伝えたら、ぴったりなものを作ってくれました。

ー楽曲は早い段階から完成していたのですか?

それが、楽曲のイメージがなかなか固まらなくて、野本さんにずっと待っていただいてました。あの曲は去年の初夏に本当にギリギリで完成して、野本さんにご提案しました。

ーあの曲がエンディングで流れた時は本当に産声みたいな衝撃がありました。あのタイミングでメッセージの強い曲だと、そっちの印象に惹かれてしまうと思うんですよ。

それは野本さんにも言われていて、私もそう思っていました。でも、このハミングだけは入れた方がいいんじゃないかなってダメ元で提案したら、一発でオッケーをもらいました。これがプロデュースすることなのかなって。監督が作品を作るけど、これを加えたらもっと良くなるっていうところまで持っていくこと。

ー信頼の上で成り立っている関係性ですね。音楽に限らず、作品全体を通しても時間の取り方とか、間の取り方とか、余白が意図的に作られているように感じました。押し付けがましくなくしている要素っていうのは、そういうところにもあるのかと思いました。

わかりますか?嬉しいです。商業だと結構難しかったりもするような間の取り方をしています。でも、商業とインディーズで分けるのには少し違和感があって、いずれにしても監督のやりたいことを全部理解できる人が周りにいないといけないと思っています。そして、それをどこまで実現できるかもプロデューサーの力量なのかなと。いくらやりたいことがあっても金銭面では限界がある。でも、ここで妥協しちゃいかんよねみたいな。戦いですね。すごい戦いなんですよ。

ーお金を出してる方からしたら、分かりやすい作品を作ってくれとか、売れる作品を作ってくれみたいな圧力もあるのでしょうか。

分かりやすい作品を作った方が、確かに物質的な戻りはあるかもしれない。でも私や野本さんにとっての利益が何なのかを考えた時、音楽に対するこだわりだったり、私の実体験だったり、あらゆるメッセージが作品に反映されていることだと思って、それを心掛けながら制作に取り組みました。

 

「原動力」は一体どこからくるのか?

ーなるほど。そんな稲村さんの活動を支えている原動力とはなんですか。

私は、「始めたい時が始め時」だと思っています。どんなことでも時間をかければ、それなりにちゃんとしたところに行きつけることができる。そうは言っても、天才肌の人には勝てなかったりするんですよ。そこで私は何をするかというと、とにかく時間をかける。映画も10年近く野本さんと撮ってみたり、音楽も長くやってみたり、何かしらの形が出るまでやり続けることが大事です。

ー継続は力なり、ですか。

それです。ただ、継続は力なりっていうとみんな10年後ってなかなか思い浮かばないんで結構キョトンとするけれども。じゃあどうしたらそこに辿りつけるかというと、私の場合は何かを継続するために削ってるのは自分の余暇と睡眠時間。ゲームはツムツム、すぐ終わるオンラインゲームのみ。これ一択です笑。

ー笑。

あとはどうぶつの森とか、すぐにやめてもいいものだけです。だからみんなで一緒にやるものはちょっとできない笑。

ー自分のペースで進めること。遅いことはないし、いつ始めてもいい。とりあえずそれを続けてみるということですね。

そうですね、映画を撮り出したのも私が50近くになってからですし。

ー勇気が出るアドバイスをありがとうございます。

 

『藍反射』をこれから観る方へ

ー最後に、これから映画を観方へメッセージをお聞かせください。

幅広い年齢層に観ていただきたいなと思います。特に、あえて言うなら、やはり10代から30代の方に観ていただきたいです。ティーンエイジャーだったり、男性のパートナー層だったり。もし好きな人がいるんだったら、観てほしいなって思います。大切な人がいたら、それは恋人だったり、奥さんだったり、子供だったり、親だったりもそうだし、自分自身でもいいです。多くの人に観ていただきたいです。

ー稲村さん、本日は長い時間ありがとうございました。

 

映画『藍反射』公開情報

2026年3月6日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開

出演:道田里羽(深山はるか役)、滝澤エリカ(牧優佳里役)、井上拓哉(秋田誠治役)

監督・脚本:野本梢

企画・プロデュース:千種ゆり子

エグゼクティブ・プロデューサー:稲村久美子

 

▼稲村さんの過去インタビューはこちら!

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