
印象派なのに「室内」?室内画から見る、印象派画家たちのリアル!【オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語】
はじめに 印象派なのに「室内」?
光と影の瞬間的な移ろいをキャンバスに収めた印象派の絵画は、時代を超えて今なお私たちの目に新鮮に映ります。
19世紀後半、チューブ式絵の具が普及すると画家たちはこぞってアトリエから画材を持ち出し、外光の下へ活動拠点を広げました。そのため、印象派と聞くと必然的に屋外というイメージに結びつきがちですが、展覧会『オルセー美術館所蔵 印象派ー室内をめぐる物語』ではそんな特色とは対照的に印象派の「室内画」にフォーカスしています。印象派においてマイナーなテーマとも言える「室内画」に注目することで、一体どんなことが分かるのでしょうか?
こちらの記事では、2026年1月現在、国立西洋美術館で開催中の展覧会『オルセー美術館所蔵 印象派ー室内をめぐる物語』の魅力についてお話しします。
展覧会に行こうか迷っている方、あるいはすでに足を運んで余韻に浸りたい方にもおすすめです!
目次
展覧会 基本情報
展示名: 『オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語』
場所: 国立西洋美術館(東京・上野公園)
会期: 2025年10月25日(土)~ 2026年2月15日(日)
値段(税込):
- 当日券: 一般 2,300円 / 大学生 1,400円 / 高校生 1,000円
- ※中学生以下、心身に障害のある方及び付添者1名は無料(要証明書)
展覧会に際して、印象派の傑作を数多く所蔵するフランスのオルセー美術館から約70点もの作品が国内に集められました。これほど大規模な印象派コレクションの来日はおよそ10年ぶりだそうです。
ここが面白い!展覧会を100倍楽しめる注目ポイント!
展覧会は「室内の肖像」「日常の情景」「室内の外光と自然」「印象派の装飾」という4つの章に分かれています。今回はその中から室内画ならではの魅力が詰まった作品を6つ紹介します!
「え!こんなエピソードがあったの?!」と知った上で足を運ぶと、展覧会をさらに楽しめるかもしれません。紹介する内容の中には展覧会の作品解説に書いてあるものもありますが、事前に知識を頭に入れておくと、実際に行った時に作品そのものに集中できてなお良しですよ!
① 未来の巨匠たちの仲睦まじい生活

WikiArt (https://www.wikiart.org/en/frederic-bazille/the-artist-s-studio-rue-de-la-condamine-1870/)
展覧会の最初に飾られているのが、バジールの作品『バジールのアトリエ(ラ・コンダミンヌ通り)』です。
バジールは、フランスにある自身のアトリエを大きなキャンバスに描き出しました。画面に描かれるのは、バジールの尊敬するマネや画家友達のモネ、ルノワールなど未来の巨匠たちです。アトリエの壁には、自身の作品だけでなくモネやルノワールなどの作品も掛けられています。
この作品の見どころは、人物が一人だけ「後から描き加えられている」点です。
バジールは普仏戦争によって28歳という若さで戦死してしまいます。1874年の第一回印象派展にすら参加できず、画壇の日の目を見ることのできなかったバジール。残された画家たちの悲しみを想像したら耐え難いものです。
そしてバジールの死後、完成していたこちらの作品にマネがバジールを描き足しました。絵画は必ずしも一人で描かれる必要はないのです。
ぜひ、どの人物がマネによって描かれたものなのか予想して、会場に行った際に答え合わせしてみてください。
② ドガとマネが大喧嘩?!原因の1枚とは

WikiArt (https://www.wikiart.org/en/edgar-degas/m-and-mme-edouard-manet)
ドガとマネはいずれも19世紀に活躍した画家です。友人同士の二人は互いに高めあい、創作活動に励んでいました。しかし、本作をきっかけに、彼らの関係に亀裂が生じます。ドガがマネ夫妻を描いて本人に贈ったこちらの作品ですが、夫人の描写が気に入らなかったマネは顔のあたりを破り捨ててしまったのです。そして、その有り様を見たドガも同様に激怒しました。その後、破損箇所にキャンバスが継ぎ足されたことで、現在は他の作品群と同じ顔ぶりで平然と私たちの目の前に飾られています。
そして、本作の隣にはマネ本人が夫人を描いた『ピアノを弾くマネ夫人』が飾られています。ドガは一体、どれほどまでに恐ろしい夫人の顔を描いてしまったのでしょうか。ドガに対するあてつけのような展覧会の展示順も見どころです。
③ 19世紀後半のリアルな家族像

WikiArt (https://www.wikiart.org/en/edgar-degas/the-belleli-family-1862)
本展覧会の大目玉ともいえる本作には、ドガの叔母一家の飾らない様子が描かれています。
黒い喪服をまとって佇む叔母と、その前方に描かれる二人の姪たち。同じ服装でも、姿勢や目線から異なる性格の少女たちであることが想像できます。そして、右側に座る猫背気味で脱力感のある男性は叔父です。たった一枚から家族間の力関係や一人ひとりの個性が読み取れる作品になっています。「肖像」と聞くと、堅苦しいイメージのものが思い浮かびますが、そんな固定概念すらも打破してやったぞ!と言わんばかりの画家の覇気がじわじわと伝わってきます。とはいえ、身内のしがらみを描いたこの作品をまさか世に出すことはできず、死ぬまで手元に置いていたそうです。
他にも、家族をテーマにした作品にはこんなものがありました。

WikiArt (https://www.wikiart.org/en/paul-albert-besnard/the-artists-family)
こちらの作品はベナールが自宅での家族団欒の時間を描いたものです。手前の無邪気な4人の子供たちに加えて、妻、義母、さらには自分自身のことも描いています。時代背景を忘れさせてしまうほど生き生きと描かれる少年少女の表情がなんとも可愛らしいです。19世紀後半と聞くとずっと前のことのように感じられますが、この作品からは現代に共通する生活の充実感が伝わってきて、幸せな気持ちになります。
「飾らない家族像」という共通のテーマを掲げつつも、作品ごとに全く異なるアプローチが見られるのが興味深いですね。
④入念に作られた「屋外」

WikiArt (https://www.wikiart.org/en/camille-pissarro/the-harvest-1882)
続いては、麦畑で働く人々を描いたピサロの作品です。「この風景画のどこが室内画なの?」と思うかもしれませんが、実はこの絵はアトリエで長い時間をかけて描き上げられたものなのです。実際、本作の制作にあたって、水彩やチョークによる習作が多数残されています。
ピサロは長年、農村をテーマにした作品を手がけてきました。一瞬の光の変化を捉えるという印象派本来の制作スタイルとは異なるものの、時間をかけて画法が突き詰められた本作は、印象派のルーツを汲みつつも強いメッセージ性を放つ一枚に仕上がっています。
⑤「未完」の作品

WikiArt (https://www.wikiart.org/en/paul-cezanne/portrait-of-gustave-geffroy-1895)
最後に紹介するのは、セザンヌによる美術批評家ジェフロワの肖像画です。
まだ世に知られていなかったセザンヌをいち早く評価したジェフロワへ、セザンヌが敬意と感謝を込めて描いた一作です。机上に置かれた白い置物は友人の彫刻家ロダンによるものです。おびただしい数の書物から知識人であることが読み取れるなど、一枚の画面からジェフロワの人物像が浮かび上がります。
ここまでの完成度にも関わらず、展示作品の解説にはこの作品が「未完」であると書かれています。確かに、言われてみれば顔や手が若干おぼろげである気はしますが、素人からすると他にどこを直すべきか全くわかりません。画家本人が未完と言ったら、それは未完なのでしょう。そんなエピソードからも画家のこだわりの強さがうかがえます。
終わりに:室内画は画家の心を映し出す
当時の人々の暮らしにクロースアップした室内画からは、風景画からは決して知ることのできない新しい発見がたくさんありました。ただ人物だけに目を向けるのではなく、室内に置かれている家具や小物などからも、そこで暮らす人物の人となりがよく分かります。
室内画というテーマを通して、どこかで遠い存在だと思っていた画家たちの内面に迫ることができました。印象派前後の画家たちの作品は特に友好関係がユニークであるため、彼らの性格や人生について知ることでより一層、作品を楽しむことができます。
今や西洋美術への関心の有無に関わらず、世界的に知られるようになった印象派画家たちの存在を間近に感じることのできるテーマとして、室内画は非常に重要な役割を果たしています。完成から100年経った今でもなお、彼らは絵画の中で鮮明に生き続けています。

この記事へのコメントはありません。