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世界の見え方が変わる、おすすめ現代歌集4選【短歌のすゝめ】

大好きなあの歌を、初めて読んだ日の光がいつまでも消えない。

 

歌集。1ページに文章がたった数行、下手すると1行しか書かれていないこともある。

そんな余白の多い本を初めて手に取ったのは「文字が少なくて読みやすそうだから」という単純すぎる理由からだった。

しかし、限られた韻律の中で多くを語る短歌の魅力にいつしか呑み込まれ、今では本棚の一角に歌集エリアができるほど、短歌が大好きです。

 

あなたを短歌の世界へと誘う一冊を見つけてみませんか?

誰にでもおすすめできる最高の歌集を4冊、厳選しました。プレゼントとして贈るのにもおすすめです。

おすすめ現代短歌集4選

言葉のビュッフェを嗜む、『きみを嫌いな奴はクズだよ』(木下龍也)

一度聞いたら頭から離れない、強烈なタイトルの一冊。

この歌集の特徴は、バラエティに富んでいる点です。

 

言葉遊びの豊かなものから、生死をテーマにした少しヘビーなものなど、計11個の連作で構成されています。

たとえば「有名税」では、つい口に出したくなるユーモラスな短歌が並べられている一方で

「理想の墜落所」では、恋人との暮らしの中にある孤独や哀しみを丁寧に描いています。

静寂が紙越しに伝わるような、計算された歌の並びにも注目です。

それぞれの連作が違った色を持っていて、別ベクトルから心を刺してくる言葉たちが短歌の可能性を示唆しています。

 

著者の木下龍也さんは、現代歌壇における代表的な歌人の一人です。

木下さんは、5・7・5・7・7という定型を無闇に崩さないスタイルにこだわるため

初めて歌集を手に取る方にとっても非常に読みやすいでしょう。

 

『きみを嫌いな奴はクズだよ』短歌3選

あの虹を無視したら撃てあの虹に立ち止まったら撃つなゴジラを

立てるかい 君が背負っているものを君ごと背負うこともできるよ

風の午後『完全自殺マニュアル』の延滞者ふと返却に来る

 

学生必読の一冊!『サイレンと犀』(岡野大嗣)

まずはタイトルの奇抜さに立ち止まり、その巧妙さにため息すら出てしまいます。

サイレンと犀、silent sigh(静かなため息)。まさにこの作品を言い表す言葉としてふさわしい表題です。

 

岡野さんは、生活の中で忘れ去られてしまうような何気ない情景や感情を新鮮なまま歌に閉じ込めます。

『サイレンと犀』は、特筆するほどでもないくだらない出来事こそが実は私たちの生活を構成しているものであることを気づかせてくれる特別な一冊です。

 

そして同時に、生きていく上で大切な言葉を与えてくれるバイブルのような一冊でもあります。

命について語る時、それは当然ひどく重みのあるものになるため読む際には覚悟が必要となりますが、岡野さんの歌では命の尊さが保持されたまま、誰もが読みやすい形となり、読者の目に飛び込んできます。

埋没された些細な情景の一つひとつをやさしく掬い取ることで、時に誰かの生きづらさを救う力があります。

 

この『サイレンと犀』は、いたたまれない日々の孤独を共にしてくれるような作品です。

そして、学生の方にもおすすめしたい一冊です。

岡野さんの歌は、思春期特有の死にたさ、不甲斐なさ、無力さに、優しく語りかけてくれます。

年を重ねるごとに変化する感受性を、この本を通して実感できるでしょう。

 

『サイレンと犀』短歌3選

春だから母が掃除機かける音聴きたくなって耳をすませる

ああそんなちっさい文字の死にたさはじき老眼で見づらくなるよ

ここじゃない何処かへ行けばここじゃない何処かがここになるだけだろう

 

赤裸々に孤独を綴る、『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである』(枡野浩一)

歌人・枡野浩一さんのデビュー25周年を記念して出版されたこの全集は、挫けた時に立ち直るための人生のエッセンスを教えてくれます。

 

枡野さんは、生活の中で感じてしまう訝りや憤りを隠さず、清々するほどはっきりと歌にしてくれます。

「こんなこと思っているのは自分だけかもしれない…」という不安や罪悪感を払拭し、あなたの孤独を肯定する歌がきっと必ず見つかるはずです。

 

口語的な文体の作品が主ですが、自分以外の誰かの思想を自分の声で読み上げるのは、とても不思議なものです。

それでも、誰かの記憶の断片を読んでいるはずなのに、どこかで自分と共通するものがあったりする。

「あれ」「それ」「これ」など指示語を含む抽象的な歌が散見されますが、そういった誰にでも当てはまる表現を使うことこそが枡野さんが自分自身の感情を歌いながらも私たちに寄り添ってくれているように感じる所以なのでしょうか。

 

感情移入しやすく、失恋にも効きます。心の傷の特効薬のような一冊です。

 

『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである』短歌3選

気づくとは傷つくことだ 刺青のごとく言葉を胸に刻んで

好きだった雨、雨だったあのころの日々、あのころの日々だった君

ハッピーじゃないエンドでも面白い映画みたいに よい人生を

 

やさしさの輪郭をなぞる、『あかるい花束』(岡本真帆)

蛍光色の装丁がゆえに、どこへ置いても一際目立って見えるこの歌集には、その明るさに負けないくらい鮮やかな歌がたくさん詰まっています。

 

『あかるい花束』では、歌人・岡本真帆さんが高知と東京の二拠点生活をする中で、感じたことや見たものを短歌という形に軽やかに落とし込んでいます。

 

花の挿されていない花器、もう二度と行くことのないラーメン屋、通りすがりのポメラニアン。

何気ない日常。

そのどれもが自分の人生を構成する一部であることを、やさしい光を照らすように私たちに教えてくれます。

 

今、ここで起こっていることも、すぐに過去になっていく。

そんな一瞬のきらめきのような出来事を岡本さんならではの鋭い感性を通して覗くと、普段見過ごしがちな些細な幸せに気づけるかもしれません。

 

歌と歌の間にたびたび挟まれる鈴木千佳子さんのお花の挿絵も、歌の世界を広げてくれる魅力の一つです。

 

『あかるい花束』短歌3選

わたしもう、夏の合図を待っている 冬至の長い夜からずっと

あなたと過ごした日々は小さな旅だった 空っぽの花器の美しいこと

「新月」と名付けた人を称えたい光らなくてもそこにあるもの

 

栞を挟んで眠る

歌集のおすすめの読み方は、気に入った歌に付箋をつけながら読むことです。

そうすることで、その歌が必要となった時にいつでも帰って来ることができます。

そんな歌集との距離感が、生活に余裕を持たせてくれるでしょう。

 

短歌の力は絶大で、いざ心を奪われてしまうといつまでも熱を帯びたまま、胸に居座り続けます。

そんなお守りのような歌が、必ず見つかるはずです。

そんな特別な出会いを求めてぜひ一冊、歌集をお手元に置いてみてください。

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