「写真家は成れの果て」カメラマン大野智嗣氏インタビュー<後編>
目次
写真家、カメラマン、フォトグラファー
―これまでの話で「写真家」だったり、「カメラマン」だったり、呼称を色々使ってましたけど、写真家、カメラマン、フォトグラファーって違うんですか?
日本の言い分けみたいになってるけど、写真家は作品を売ってお金を稼ぐ人。頼まれた仕事ではなくて、自分の写真を撮る。どちらかというと趣味も写真の人たち。
フォトグラファーは広告写真を撮ってる人たちが多い印象で、自分主体の作品ではないんだけど、ある程度自分の世界観も入れ込んでいる。有名なフォトグラファーはほぼ作品みたいになってたりするけど。
カメラマンはいわゆる商業カメラマンで、指示されたものを撮る人たちが多い。わかりやすいので言うと、写真館とかで家族写真や成人式の写真を撮るような人たちかな。
ちなみに、海外は全部「フォトグラファー」で統一しています。
カメラマンと写真家
―なるほど、それを聞くと「カメラを使って写真を撮る」って言っても、適性がぜんぜん違う気がします。特に写真家とカメラマンは真逆のような。画家とイラストレーターみたいな違いがありますね。
そうだね、まったく別物。
うちのアシスタントをやってた子がいて、そもそもそいつは天才的な空間能力を持ってたんだけど。画家志望だったけど結局画家にはなれずで、写真見せてもらったらありえんくらいのクオリティだった。
それでアシスタントとして入ってもらって、カメラマンをやらせたんだけどめちゃくちゃ下手で。笑
教えても何もできない、要領悪いし、天然すぎていろんなもの壊すし、カメラマンに絶対向いてないタイプ。でも「カメラマンやりたい」って言うから、4年はがんばったんだけど、最終的に写真家やんない?って言ったら、「写真家やります」って言ってやめてった。
―めちゃくちゃ参考になる話ですね(笑)その方はなんで最初から写真家をやらなかったんですか?
やっぱりライティングとかの基礎は学びたかったらしい。徹底的に現場でやりたいって気持ちはあった。美大の写真の授業を受けてたんだけど、美大で教えてもらってたこととぜんぜん違うって。
カメラマンとフォトグラファー
―カメラマンとフォトグラファーはもう少し近いんですか?
近いけど一番喧嘩するところだと思う。フォトグラファーの人たちはプライドが高いから。
「カメラマン」と言われることをすごい嫌うけど、フォトグラファーからカメラマンに落ちちゃう人たちがめちゃくちゃ多い。カメラマンサイドに来てるのに「元フォトグラファーだよ」ってオーラが消えない。だから仕事を一緒にするのが一番きつい。
―フォトグラファーはアーティストだったわけですもんね。
自分主体で撮れるし、かっこいいものを生み出してたって自負もあると思う。だけどカメラマンになると撮らなきゃいけないものが決まっていて、クライアントが望んだものを完璧に模写することが一番求められる。お客さんの層も変わる。フォトグラファーはトップモデルやトップの商品を撮るけど、カメラマンになると一般人や一般の商品に変わる。
能力で言うと、カメラマンは写真の腕よりも、赤ちゃんをなだめる能力とか、人を笑わせる能力とかそういうとこに重きを置かなきゃいけないんだけど、プライドがあるとそれができなくて、結局カメラマンの仕事ができない。
―つらいなあ。フォトグラファーの多くは写真家になりたいのかな。
フォトグラファーの多くは写真家になりたいと思う。ただ、写真家は今でこそちょっと食い扶持が増えてきたけど、写真ってほんとに売れないから。特にデジタルが始まってから一気に価値が落ちた。
それまではフィルムごと売っちゃって、「世界に一本」っていう価値を付けることができたけど、デジタルは何枚でも写真が作れちゃう。だから結局ストックフォトみたいになっちゃって、そうなるともう写真家ではない。でもそれでも写真家っていう人はたくさんいるけど。
―もう好き勝手名乗ったらいいと思います(笑)
好き勝手名乗ってるのが写真家だね。撮ってりゃいい。一枚もプリントしてなくても写真家を名乗っていいだろうし。
―大野さんはなんて名乗ってますか?
僕はめんどくさいから「カメラマン」。会う人によって写真家っていうときもあるけど、大体カメラマンで統一してる。
一般の人を撮るのが一番楽しい
―大野さんは写真スタジオをやっていますが、きっかけはなんですか?
もとからなんとなく人を撮ってたんだけど、今より時代が緩かったときは街で至近距離でスナップしたりしてた。止めてポージングさせちゃうと構えられちゃうから、撮りたいオーラのある人にずっと併走して、いろんな角度探して”ここだ”ってところで撮って、「あの、撮っちゃったんですけど…」って。
―こわ…
でもそのくらい度胸がないとカメラマンってできないと思う。度胸をつけるのに歌舞伎町とかで毎日撮影してたし。
決められたセッティングでモデルさんを撮るのも楽しいんだけど、一般の人を撮るともっと違う楽しさがたくさんあった。その人たちが一生大切にする写真だから。
広告の写真はどうしても消費される写真になってしまう。スキルやその時代の流行りを見せることはできるから、勉強や練習をして結果を出す場としてはいいと思うけどね。
どんな人がカメラマンに向いているのか
―次はどんな人がカメラマンに向いているのか教えてください!最近はSNSの影響もあって、カメラマンやフォトグラファーにあこがれる人が多いと思います。
色んな経験をしてて、なおかつ色んな挫折をしている人が向いてるんだと思う。けど、カメラマンになりたい人が多いというのがやっぱり現代人だなと思う。昔はいきなりカメラマンになりたいっていう人はとっても少なくて、なんでかって言うと、カメラマンの写真を見ることがなかったから。有名なフォトグラファーや写真家さんだと、奇抜なことやってる人は一般の人でも知ってる人は何人かいたけど。篠山紀信とか。
―あこがれる機会がなかったんですね。
うん、本当になかったと思う。圧倒的に人数が増えたのはデジタルになってから。逆に「私でも出来んじゃね」って思われてる。カメラがあれば撮れちゃうし、どんどん精度も上がってるからね。フィルムの時代はカメラマンを目指したとしても、下積みがとても長かった。フィルムの特性上、現像を覚えるのにとんでもない期間がかかったから。
デジタルになってからパソコン作業ですべてが済むし、後は直感でどうにかなっちゃうところもすごい多い。で、「私にもできるんじゃないか」っていう安易な感じでオシャレな写真撮れる人がたくさん出てきた。だけどそういう人達が結局職業にしていこうってなった時に、広く浅く挫折してないから知識が足りない。だからインスタみたいなおしゃれな写真はたくさん撮れるんだけど、実際に商品撮影とかになったときに何も撮れない。
―たしかに、シャッター押せば写るし、加工でなんとでもなりますよね。自分でもできるって思っちゃう。
それがカメラマンだと思う。画家の絵を見て、いきなり「自分でもできるかも」とはなかなか思わないでしょ?iPhoneで撮って加工して、オシャレに見えてフォロワーがいっぱいいれば「できるかも」って思えちゃうから。基礎がなくても。そういう人が増えたから、今の時代はカメラマンに憧れる人が増えたんだと思います。
写真の仕事がしたい10代へ
―じゃあ、カメラマンでもフォトグラファーでも何でもいいんですけど、それになりたいっていう10代の子がいたらどんなアドバイスをしてあげますか?
普通に写真見せてって言う。
中学の授業でも「写真やりたい」っていう子がいて。「じゃあ写真見せてよ」って言ったら「いやです」って言われて。「じゃあなれないよ」って言った。
写真家・カメラマン・フォトグラファーどれにしても写真を見せるものだから、「見せられないんだったらならないよ」って。
―一瞬嫌われるけど、役に立つアドバイス…
その子今めっちゃ頑張ってるよ。
―いい方向に行ってよかったです。写真家、カメラマン、フォトグラファー、自分がどれに向いてるかってどうやって判断したらいいんでしょうか?
自分で判断するのはとてもむずかしいと思う。
実際、ある程度お金を稼げてるような写真家なりカメラマンに見てもらうのがいいと思う。1日使えば絶対わかるから。
―そういう機会ってなかなかなくないですか?
今は逆にあるんじゃないかな。インスタとかTwitterとかなんぼでも繋がれると思うし。
―DMで送ればいいのか!いきなり「見てください」って
写真家さんとかマジでみんな返信くれるよ、本当に。イラストレーターもよく言うけど、みんな返信くれる。なんでだろうね?
―寂しいのかな。
寂しいのかもね。普段あんまりそういうメッセージやDMが来ないからじゃないかな?
―送っても返信返ってこないイメージでした。
来なさそうなんだけどきます。
特に中学生高校生とか若い世代から来ると嬉しいと思う。なおかつそのフォトグラファーに見てもらいたいってことは、そのフォトグラファーの写真が好きだってことだから。普通にガンガン添削して返ってくると思う。
―みんなに知ってほしいですね。でもそれでめっちゃ来るようになったら、、、、
返さなくなる(笑)
―みなさん、今のうちに…!笑
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