「写真家は成れの果て」カメラマン大野智嗣氏インタビュー<後編>
高校時代にとつぜん旅に出た大野智嗣さん。半年間ストリートでの生活を経験して、唯一得られたものは「どんな境遇でも生きていける強さ」だと言います。
その後、バイク屋、バーテンダー、整体師、ボディビルダーと色んな職業を経験して、今は写真スタジオを構えカメラマンを本業としています。
後編では”職業”に焦点を当て、カメラマンになったきっかけや、カメラマン業界のあれこれについて話していただきました。
目次
旅で写真に出会った
―(編集部)今回はカメラマンについて教えてください!旅でカメラマンになるきっかけをくれた方と出会ったと聞きました。
オカダトモコという女性で、初対面はゴミ袋にくるまってた。僕が仙台の公園で寝てたら、ガサガサ音が聞こえて、起きたらゴミ袋から首が出てる女の人が倒れてたの。その時、「これはほんとにやばい」と殺された死体をなすりつけられたと思った。でも様子を見てたら動いてるから、「あ、生きとんな」って。
その子も僕と同じように旅人で、僕よりいくらか年上で、何歳かわからなかったけど、写真を撮って旅してた。写真を撮って、フィルムの時代だったから街の写真屋さんで現像して、ポストカードにして、道端で売って、そのお金でまたフィルムを買って、ってのを繰り返して。
「なんでそんなとこで寝てたん?」って聞いたら、何度も襲われたことがあるらしくて。一番安心できるのは旅人の隣らしい。だから旅人を見つけたら、その横で寝てるって言ってた。「それもどうかと思うよ」って言ったんだけど。笑
初めて「写真がすごい」と思った
―出会いが面白いですね。オカダトモコさんの写真を見て、写真をやりたいと思ったんですか?
そうだね。僕は昔から絵描いたり、歌作ったり、いろんなアートが好きなんだけど、写真だけは嫌いだった。写真って機械の性能じゃん、誰でもできんじゃんって思ってた。
でもオカダトモコの写真を見た時に、初めて「写真がすごい」と思ったの。
音楽や絵って、基礎練とかデッサンとか長い年月かけてようやく基礎ができて、その基礎の上に作品があって、ってプロセスがあるのに、写真ってカメラを与えられた瞬間に撮れるじゃんって思ってた。
だから「カメラマン」っていう人たちが一番信用できなかった。
―めっちゃ嫌いじゃないですか(笑)
ほんとに嫌いだった。旅人とかストリートミュージシャンやってるときにも、雑誌の取材とかくるの。そういう人たちがカメラマンなんだけど、だいたい胡散臭い。「お前にアートの何がわかるんだよ」って対立してた。
でも、オカダトモコの写真にはめちゃくちゃ感動した。ひたすら空とか撮ってんだけど、なんかその写真を見たときに、写真ってその場所にその人がいて、そのときになんとなく絵とかと違って、ほんと瞬間、何千分の一っていうシャッターのスピードで、今、見た瞬間撮りたいと思って撮った景色なんだなって。当たり前のことなんだけど、それにふと気づいた。
傍から見たら毎度同じ空。だけど、この人がずっと日本をグルグル回ってひたすら空を撮ってる理由が、わからないんだけどすごいと思った。猛烈に写真に感動しちゃって、自分も写真やってみよっかなって。それで、仙台で歌ったお金で、ボロボロのジャンクカメラ屋さんで「一番安いカメラください」って言って、フィルム買って入れて、めちゃくちゃ撮りまくった。
それがほんとの一番初めの写真に触れたきっかけで、写真が好きになったきっかけ。今でもオカダトモコの写真が一番すごいと思ってる。それほど心が動いた写真はないから。
写真家は「成れの果て」
―その後どんどん写真にハマっていったんですか?
写真はずっと一応撮ってたけど、仕事にするほどではなかった。古いフィルムカメラが好きになって、造形の格好よさや道具を使う楽しさがプラスされて、単純に写真はおもしろいなと。それでも、すごい写真家の写真を勉強しようとしても、どれもすごいとは思えなかった。
最終的にカメラマンになるきっかけに繋がったのは、いろんなところで会うカメラマンの話を聞くうちに、「写真の深さ」みたいなのを知ったこと。それこそ写真家って旅人じゃないけど、雑学の天才だと思ったの。ミュージシャンはめっちゃ音楽頑張ってミュージシャンになるけど、写真家ってそういうのになれなかった人たちの成れの果てなんじゃないかって思うようになって。
―写真ってなんでも撮れますもんね。
そう、いろんなことやってる人が多い。みんなのいい部分がわかる人が、最終的に道具に頼って良いものを残せるようになる。
だから、何かに挫折した人がすごく多い。画家とかミュージシャンとかをやってたんだけど、それでは成功できなくて、その傍ら「写真撮ってあげるよ」って言ってた人がカメラマンになったりとか。絵が描けないから写真を撮るとか。
例えば、僕がバイク屋やってた時の話なんだけど。僕の自信作のハーレーがあって、それをショーモデルで出すためにカメラマンが撮影に来てくれた。そしたら「普通そこわかんないよね」ってこだわったポイントが全部誌面に載ってたの。
―めちゃくちゃ嬉しいですね。
ほんとにバイクに詳しくないとわかんない部分だった。そのカメラマンに話聞いたら、そんなにハーレーは詳しくないらしくて、「でも作り手の気持ちはわかる」と。それで、カメラマンすげえと思って。カメラマンになりたいなって思うようになったんだよね。
絵画的、かつ写真
―最初は嫌いだったけど、少しずつきっかけが重なって写真の魅力に気づいたんですね。トモコさんの写真以外に「この写真すごい」と思ったことってあるんですか?
うーーん、「この写真がいい」っていうのは結構あるけど、「この作家が好き」っていうのはあんまない。まあアラーキー(荒木経惟/あらき・のぶよし)はさすがに、もう全ての、写真っていうより生き様を含めて作品として影響をものすごい受けたけど。
あとはベースになっているような写真で言うと、アーヴィング・ペンの構図を研究しまくったな。
―アーヴィング・ペンはどういうところをいいと思ったんですか?
絵画的なんだけど写真でしかできないことをやってる人を初めて見つけた気分になったから。
僕は絵はもともと好きで、いろんな画家さんとかの作品は見てたんだけど、写真にしかできないものって何なんだろうって思った時に、絵画的なんだけど写真で表現してるものとしてすごく惹かれた。
この人の持つポージングって絵画的じゃないんだよね。絵画ってもっと長時間座らせたりから、楽な姿勢を取らせることが多い。アーヴィング・ペンのポージングはものすごい奇抜なことをやらせるんだけど、その奇抜な格好をさせてるのに収まりがいい。
画家のヴィルヘルム・ハンマースホイがすごく好きで、通じる部分があると思う。
―あの”スン…”ってした感じはたしかに似てますね。
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